ゼルトザーム屋敷の冒険【オリジナル】 (ページ14)

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第１４話　晩餐会の支度１ページ14

「君は優しいんだね」

　ジークヴァルトさんが目を細めて微笑んだ。

「へ？」
「彼らにワガママを言って一緒に待ってもらう事もできただろう？自分ばかりが濡れたままで待っているなんて随分と優しいじゃないか」
「……だって、それは申し訳ないですよ。ワガママを言って物事が良くなった事なんて、一つもない。いつもいつも怒られて損するだけでしたよ。だから……」

　──あれ、なんで初めて会った人にこんな事を言っているんだろう。

「尚更君は優しいね」

　その言葉が冷えた体に少し暖かさを戻してくれた気がした。

　それから少しして、ホルストさんが一人の女性を連れて来た。「自分が行くと聞かなくて…」と若干呆れながら、ホルストさんはその女性に「後は任せましたよ」と言ってジークヴァルトさんと共に来た道を戻っていく。

　改めてやって来た女性の方に視線を移す。お腹まである濃い緑色の髪の毛をクルクルと巻いて、赤い瞳を持つ睫毛の長い垂れた目。唇は血色のいい桜色で、フフと微笑む顔を見た瞬間にストンと納得する。こういう人を"美人さん"っていうんだろうなあ。

　美しい花々が刺繍された青いベルラインのドレスを身に纏い、頭を沢山の花の飾りで彩るその淑女は、私を見ると、美しい顔に笑顔を咲かせた。

「可愛い～～！若い女の子じゃない！ここじゃ珍しいわね」
「は、はい……？」
「紹介が遅れちゃったわね、私はティアナ・ヒルトマン。気軽にティアナと呼んでね」
「あ、あ、わ、私は、エラ・リースフェルトです」
「エラちゃんね。まー、こんなにびしょ濡れで……お着替えとか色々持ってきたから、あとは私に任せてね」

　と言うとティアナさんは私の返事も聞かずに私の部屋へと入っていった。な、なんと……強引な人だろう。呆気に取られながらも部屋の中へと入っていく。

「ベッドの側までいらっしゃい。まず先に服を脱いで、替えを持ってきたわ」

　大丈夫よぉ、そっぽ向いているから。と言って背を向けるティアナさんを見てから、セーターを脱いだ。暖炉で乾かせたかと思っていたけれど、脱いだ振動でセーターから水滴がポタポタと落ちる。
　体も若干濡れていたみたいで、肌に触る外気の寒さに再び情けないくしゃみをした。一刻も早く着替えたくて濡れている服を、それこそ下着でさえも無造作にポイポイと脱ぎ捨てていく。