レンズ【WN】 (ページ3)

今日:1 hit、昨日:14 hit、合計:7,682 hit

Eye ページ3

あの日から何ヶ月経った9月のある日

私は大学内の図書館に足繁く通っていた

もう頭からあの日のダンスサークルの事は抜けていて今は本に夢中だった

いつも大きな窓がある日当たりのいいスペースで本を読むけど
今日は学生がやけに多い

そうだ、どこかの学科の4年生が一斉にテストを受けるんだったっけ?

あ、いつもの場所に先客がいる

テスト前の先輩方に迷惑をかける訳には行かないと、いつも行かない薄暗い場所へ移動した

さっきの場所とは打って変わって、勉強するには薄暗いアンティーク調の大きな出窓がひとつあるだけのなんだか御伽噺に出てきそうな部屋に来た

この部屋には大きな本棚とそのあいだあいだに座り心地の良さそうな椅子が置かれていた

本棚には翻訳された海外の本しかなくて

ここなら勉強する人もいなさそうだしゆっくり本を読めそう

試しに近くの本棚にあった海外のミステリー本と手に取りパラパラと捲った

この本が結構面白くって

もっと詳しく読もうと、奥の読書スペースへ移動した

歩きながら読んでいたから気づかなかったけど、奥には1人だけ人がいて

邪魔をしないようにと少し離れた1人がけのソファに腰を下ろした

その人は日光を欲するように出窓の縁に座り本を読んでいた

メガネが似合う背の高い人

彼が本を閉じてまっすぐ前を向いた時

綺麗な横顔だな、と

その言葉と一緒に何日か前の記憶がパシャッとフラッシュを焚いた

綺麗な横顔

伏せた睫毛が隠す切れ長な目

ゴツゴツとした手

彼はあのダンスサークルの人だった

ダンスを踊っていた時には分からなかった

優しくて真剣な顔と

ページをめくる繊細な指先

一つ一つの行動がスローモーションに見えて

木漏れ日が照らす彼から目を離せなかった