罪悪感の涙に飲まれて ページ42
橋本side
「ななみん、あのさ…」
橋本「うん、どした？」
「あのね…っ」
橋本「おおっと……何かあったね？
どした？辛くなっちゃった？」
「…お姉ちゃんが、帰って来た」
橋本「お姉ちゃんが？」
「昨日突然帰って来て、それでママと揉めて…
お姉ちゃんが、ママのこと家から追い出したの。
それでママ、家出てくことになっちゃった…」
2日ぶりの仕事は、リフレッシュした気持ちで迎えられた。
楽屋で伸びをしてたら、Aが神妙な面持ちで話しかけて来て。
そのまま抱きついて、私の胸に顔を埋めてる。
辛いことがあったのかと思ったけど、想像の斜め上の話だった。
お姉ちゃんが帰って来て、お母さんが家を出てった？
全然脈絡がなくて展開が読めない…
悪い話じゃないように感じるけど、目の前のAは辛そうで。
経緯も分かってないから、混乱を隠せない。
「悪い話じゃないの、全然。
だって、ママがいなくなれば怒られない。
あんなに否定されることもないから、怯えなくて済む。
管理だってされなくなるし、プレッシャーで追い込まれることもない。
分かってるの、解放されるって。
それに、お姉ちゃんのこと大好きだし。
安心して家に帰れることには、正直ホッとしてるよ」
橋本「うん、そうだよね…」
「でも…っ」
彼女自身も、悪い話じゃないことは自覚しているようだ。
そりゃそうか、彼女が1番辛い目に遭ってきたんだから。
痛みの根源がなくなったら、安心が強くなるのは当然のこと。
自分で分かってるなら、何でこんなに辛そうなの…？
余計に分からなくなった。
いや、1つだけ思い当たる節がある。
もはや彼女にとって、この考え方は癖なのだと思う。
切りたくても切れない縁が、彼女をがんじがらめにする鎖になっていることを。
いつになったら、この呪縛は解かれるのだろうか。
橋本「お母さんに、悪いことしちゃったなって…？」
「私は今まで、お母さんがいなかったら生きて来れなかった。
私立行きながら仕事なんて、絶対無理だった。
それなのに、自分のわがままで帰しちゃったんだよ？
私は自分のことしか考えてない…最低なの…っ！
しかも、私は…私はね…っ」
橋本「どしたどした？」
やはり、彼女は母親に対する罪悪感を深く抱いていた。
ただ、いつもと違うことが1つだけ。
罪悪感の先に、もっと別のベクトルの感情を抱いていたこと。
それこそが、彼女を真に苦しめているのだろう。
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作者名：しろりんご。
| 作成日時：2023年4月9日 18時
