追憶の愛 ページ15
深川side
初めて足を踏み入れた、NHKホール。
夢にまで見た大舞台だ。
ふわふわした気持ちで終わってしまいそうなのを、必死に立て直す。
地に足つけて、現実を噛み締めないと。
だって、私は…
「まいまーい」
深川「A、どしたの？」
「衣装のフィッティング、一緒に行こー」
深川「うん、行こうね」
「衣装、めちゃくちゃ可愛いんだって！
オープニングのも、歌衣装も、裏トークのも」
深川「3種類もあるんだねぇ」
「紅白は、着替えが多いからねぇ」
慣れない空気に緊張してたら、左手に温もりが。
Aがしっかりと手を握ってる。
ここ最近、Aはずっと笑ってる。
まるで、この1年あった辛いことなんて、全部忘れてるように。
でも、それくらい嬉しいんだと思う。
乃木坂46として、紅白歌合戦に出られることが。
痛みを癒すのは、薬じゃないのかもしれない。
夢や希望や目標。
そんな、誰かと一緒に叶えるキラキラしたものなのかもしれない。
深川「Aは3年間、この景色を見てきたんだね」
「んー、まぁホールの景色はね。
でもね、この景色ではないよ。
AKBさんのステージと、乃木坂のステージは違う。
だから私も、乃木坂の景色を見るのは初めて。
同じ景色のように見えるかもしれないけど、多分…いや、絶対違うと思う」
深川「緊張してる？」
「うん、ずっとふわふわしてる。
多分、人はそれを緊張って言うんだよね。
ソワソワしてるっていうか、地に足が着いてないっていうか…
まだ、夢なのかなって思ってる自分がいる」
深川「私も…笑」
「やっぱりそうだよね」
深川「不思議だよね、こんなに立ちたかった場所なはずなのに。
いざ立ってみても、現実かどうか分からないんだもん」
「夢ってさ、追いかけてる時はすごい必死で大変なのに。
叶っちゃうと、意外と拍子抜けしちゃうもんだよね。
あれだけ願ってたのに、まだ実感湧かないままなんだもんね。
ほんと、おかしいなぁって思うよ笑」
Aは、紅白歌合戦に出るのは4回目なのに。
初めての景色だと言ってくれた。
いつも、外で戦ってくれてるAのために。
乃木坂46として、紅白に立ちたい。
そう心に願っていたのは、私だけじゃないはずだ。
本気で願っていたから、叶った実感が湧いていないのも。
でも、その感覚すら心地良い。
Aと同じ気持ちを共有してる。
それだけで、ここを目指して走ってきた意味があった気がするんだ。
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作者名：しろりんご。
| 作成日時：2023年3月28日 18時
