楽になりたいから辞めます ページ34
何にも考えられなかった。
ただ、芸能界を辞めて医学部を受験するということ。
それさえ上手くいけば、一生穏やかに暮らせる。
ママのことだって好きになれるし、ママも私を好きになってくれる。
それだけ手に入れば十分だ。
その未来だけを見据えて、私は今野さんの元へ向かった。
『A、話って…』
「辞めます、アイドル」
『……は?』
「AKBとの兼任も辞めて、乃木坂も卒業します」
『ちょ…ちょっと待って、落ち着こう』
「落ち着いて考えて決めたんです。
もう無理、限界です。
これ以上は続けられないです、辞めさせて下さい」
『待って、A。
いきなりそんな…どうした?
何かあった?お母さん?』
「…私が、自分で考えて決断しました」
頑なにこう言った。
ママの意志じゃない。
私が、もう限界だから。
私が、これ以上は耐えられないから。
私が逃げるために、この決断をしました。
ママにやれって言われたわけじゃない。
それは違う。
うん…絶対に違う。
『どうして、辞めたいって思ったの?』
「辛いから…」
『何がどう辛いのか、話せる?』
「人に評価されることに疲れました…」
『総選挙とか選抜とか?』
「具体的にこれってわけじゃないけど…
でも、もう人の目を気にするのが辛い。
誰にも干渉されない世界に行きたいんです…」
私なんか、応援してもらう価値もない。
自分の親にすら、あんなこと言われるくらいなんだから。
外側から見た私は、相当歪んでるのだろう。
みんなが届けてくれる好きって気持ちでさえ、疑いそうな自分がいる。
そんな人がアイドルだなんて、絶対ダメだ。
『A、病院行ってる?』
「キャンセルしました…」
『なんで?何か嫌なことあった?』
「違うけど…」
『もしかして…キャンセルされたのか?』
「…いや」
『橋本の家は?帰ってないの?』
「ちがう…っ」
『どうした?何があった?
何かあったのは分かるけど、話してくれないと…
Aは今、周りの人にどうして欲しい?』
「私なんかに構わないで…っ!
もう辞めるの!アイドルなんか辞める…っ!
それが1番楽になれるの…っ!
いやなの…っ!全部やなの…っ!」
今野さんは、母親が絡んでることに気づいてる。
母親のせいにしようとしてる。
私の頭が、危険を察知した。
脳内再生されるあの声に、耳を塞いだ。
聞こえなくなるくらい大きな声で、私も負けじと叫び返した。
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作者名:しろりんご。 | 作成日時:2023年3月18日 10時