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胸騒ぎがした。
リハの段階で、それは感じた。
優子さんの様子が、明らかにいつもと違う。
けれど、何も言うことが出来なかった。
そんな暇すらなかった。
バタバタと動き回る舞台裏。
時間のない、本番までのスケジュール。
だから私も、いつの間にか胸騒ぎなんて忘れていた。
まして、ちょっと前に感じた違和感なんて。
今年ももうすぐ終わる。
来年は、どんな年になるだろうか。
なんて呑気な気持ちでいた自分を、私は後に呪うこととなる。
:
私の初の総選挙選抜である、恋するフォーチュンクッキー。
社会現象にもなってダンスを、会場全体で踊りきった。
この日のために作られた衣装を着て。
いっぱい銀テープが舞って。
あぁ、夢みたいだなぁなんて。
大島「ありがとうございました〜
恋するフォーチュンクッキーを聞いて頂きました〜」
そして、次の曲はヘビーローテーション。
まさか、この曲をこのポジションで歌う日が来るなんて…
私は、前田さんの位置を任されていた。
斜め前に優子さんがいる。
大切に大切に、その時間を噛み締めよう。
そんな刹那、事件は起こった。
大島「えぇ、私事ではありますが…
ここで少しお時間を頂いて、お話させて下さい。
私、大島優子は、AKB48を卒業します」
心臓が撃ち抜かれたかと思う程の衝撃だった。
卒業…?
優子さんが?
AKBからいなくなっちゃう?
訳が分からなかった。
大島「少し前から話し合っていて、色々と調整をしていました。
そして、今日発表しようという運びになり、させて頂きました。
紅白歌合戦という場をお借りして申し訳ございません。
お時間を割いて頂き、ありがとうございました。
そして、2013年もAKB48の応援をありがとうございました。
来たる2014年も、48グループの応援をよろしくお願いします。
さてここからはね、みんな笑顔で行きましょう!
年内最後の歌番組なので、ぜひ盛り上がって下さい!
それでは聞いて下さい、ヘビーローテーション!」
大好きなドラム音。
歯切れの良い掛け声。
全部、全部憧れで、大好きで堪らないのに…
「…っ」
今はただ、涙が止まらなかった。
泣くつもりはなかった。
涙を止めろと、頭では命令していた。
でも、止まることを知らなくて。
とめどなく溢れてきて。
為す術なく、私はただ踊っていた。
斜め前の大好きな背中を直視出来ない。
2013年最後にして、今年1番の涙で溺れていた。
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作者名:しろりんご。 | 作成日時:2023年2月2日 11時