見えない靄 ページ18
一晩明けても、まだスッキリしなかった。
黒いシミは、濃度こそ薄まったものの、まだ存在する。
色は薄くなったけれど、消えたわけではない。
こんな時は、体を動かすに限る。
そうすれば忘れられることは、経験済みだ。
着替えて向かった先は、レッスン室。
何となく、足がここに向いていた。
:
〜♪
CDデビューは決まったけど、まだ曲がない。
だからとりあえず、レッスン用の音源をかけた。
ストレッチから基礎練、ステップ練習などを順番に進める。
間引かずに全て行った。
冬だというのに、体は汗ばんでいた。
でもおかげで、心のモヤモヤは晴れていた。
『…やっぱりここにいたのか』
「え…今野さん？」
『寮に行ったら、出かけたとか言うから』
「あ、ちょっと体動かしたくて…」
『カラオケかレッスン室だと思ったよ。
でも、松村も橋本もいたから。
小学生1人じゃ、カラオケは入れてくれないからね』
「だからレッスン室に来たんですね」
『相変わらず練習熱心だね』
「熱心っていうか…今日は踊りたい気分だったんです」
ドアが開いたと思ったら、突然現れた今野さん。
どうやら、私を探してたみたい。
何もしてないはずなのになぁ…
なんでわざわざ、私に直接会いに来たんだろう。
『そんな練習熱心なAに聞きたいんだけどさ』
「はい」
『Aって、AKB48の曲踊れる？』
「AKBさんのですか？
…まぁ、表題なら結構踊れると思います」
『ちょっと踊ってもらっていい？』
「分かりました…」
『音楽はかけるから、好きな曲でいいよ。
あと念の為、動画だけ撮らせてね』
「どうぞ」
更に唐突に、AKBの曲を踊れるか聞いてきた。
踊れるけど、意図が全く分からない。
今から乃木坂の曲が貰えるっていうのになんで？
急すぎるし、まだ事態が飲み込めていない。
でもとりあえず、言われた通りにした。
『うん、いいねぇ』
「ありがとうございます…」
『元々ファンだったんだっけか』
「ファンでした」
『それなら余裕だったかもね。
ありがとうA、参考になったよ』
「それならよかったですけど…」
『個人情報は必ず守るから安心して。
それじゃあ、練習の邪魔してごめんね』
「いえ…ありがとうございました」
今の時間、何だったんだろう。
せっかく消えた靄が、またかかりそうになった。
だからそうなる前に、再び踊り出した。
今度はもっと、激しいやつにしよう。
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作者名：しろりんご。
| 作成日時：2023年1月5日 14時
