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『私は今、やりたいことをやってる。
夢を叶えるために勉強してる。
自分のやりたいこと見つけて、本気で叶えたいって努力してる。
そして、それがすごく楽しい。
でも、Aはどうなの？
今、目の前にあることをやってて楽しい？
本気でやりたいって思って取り組んでる？』
「…それは」
私の姉は、強い人だと思う。
たまにこうやって電話をしていて、つくづく思う。
彼女は、自分のやりたいを見つけた。
殻を破って、進んで行った。
振り返らなかった。
時々、私の手を引っ張ろうとしてくれる。
その手を繋げば、新しい世界が見えることには気づいていた。
でも、自信がなかった。
その世界と引き換えに、何か大きなものを失ってしまう気がして。
お姉ちゃんが羨ましい。
私はずるい。
人を羨むくせに、自分ではどこにも歩き出せないんだから。
答えが出せない。
そんな私を見かねて、お姉ちゃんは話題を変えた。
やっぱり、私はまだ飛べない。
『んで、今週末の握手会は行けそうなの？』
「うん、お姉ちゃんと会ってくるって言ってある」
『何か言われなかった？』
「模試対策の参考書選んでもらうって言ってあるから」
『なるほどね笑』
「次の握手会は、模試の後にお姉ちゃんと自己採点するって言ってある」
『ほんと、よく頭使うよねぇ』
「まぁね笑」
『その時にさ、ちょっと話があるんだけど』
「え、なに？」
『詳しくは会ったら言うけど、Aを自由にしてあげる』
「ますます分からないんだけど笑」
『まぁまぁ、話を聞けば分かるからさ』
「えぇ、分かった」
『とりあえず、無理はしないこと。
日曜日に会うまで、元気にしてるんだよ？』
「うん、お姉ちゃんも勉強頑張って！」
『はーい、じゃあおやすみ〜』
「おやすみなさい」
狭いと思っていた家も、夜だけは広く感じる。
ベッドになだれ込んで1日を振り返ると、特に広く感じる。
でも、お姉ちゃんは傍にいてくれる。
離れていても、ちゃんと私の手を握ってくれている。
ずっと、その手が道しるべだった。
そんなお姉ちゃんが、私は別の場所に導こうとしてくれている。
自由の彼方へ連れて行こうとしてくれている。
どこか、ワクワクする場所へと。
久しぶりに、心が弾んだ。
今日はよく眠れそうだ。
週末まで、あと3日。
3回眠れば、何かが変わるかもしれない。
起こるかも分からない未来に胸を弾ませながら、私は夢の中へと堕ちていった。
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作者名：しろりんご。
| 作成日時：2023年1月1日 0時
