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「あ、もしもしお姉ちゃん?」
『なに、まだ起きてたの?』
「ちょっと塾の宿題が終わらなくて…」
『こんな時間まで…』
「いいのいいの、私が悪いから。
帰って来て、ちょっと友達と電話してたら時間経っちゃってて。
ママが、終わるまで寝ちゃダメだって。
せっかくお金払ってもらってるんだから、宿題やらないといけないし。
ママの言ってることは間違ってないの。
だから、これは私が悪いの」
『いやでも、もう結構遅いよ?
小学生が起きてて良い時間じゃないでしょ。
別に、明日学校に持って行ってやればいいじゃんね』
「ほらでも、学校でやってると色々言われちゃうかもだし…」
『色々って?』
「中学受験するなんて、頭良い自慢ですかーとか。
私立行けるなんて、お金持ちは違うねーとか」
『でも、言われたことはないんでしょ?』
「まぁ…」
『お母さんが勝手に被害妄想してるだけでしょ』
「そうかもしれないけど…」
『まぁ、でも逆らえないよね』
「うん…」
時刻は、日付を少し変わった頃になっていた。
塾のクラスが特進になってから、コマ数も増えて時間も長くなった。
帰宅時間が遅くなったからって買ってもらった、新品のスマホ。
周りはほとんど持ってないからいらないって言ったけど、これも防犯のためだって。
でも、買ってもらって良いこともある。
それは、離れて暮らすお姉ちゃんと頻繁に連絡が取れること。
私のお姉ちゃんは、10歳も歳が離れている。
今は専門学校で、パティシエになる夢を叶えるために勉強してるんだ。
東京で一人暮らししてても、こうやって話せるのは嬉しい。
:
『ねぇ、A…』
「なに?」
『自由になりたいって思わない?』
「自由…?」
それからは、いつものように他愛もない話をした。
お姉ちゃんも私も、それ以上つっこんでは聞かなかったし、言わなかった。
一旦、会話が一区切り。
電話越しに、ペットボトルの水を飲む音が聞こえた。
しばしの無言の時間を過ごすと、唐突にお姉ちゃんが切り出した。
沈黙破りは、想像の斜め上の問いを連れて来た。
お姉ちゃんの言う自由とは、何を指すのだろうか。
分からないわけじゃない。
けど、知るのが怖かった。
これでいい、満足なんだ。
そう言い聞かせているだけで、もっと広い世界があることはとっくに知っている。
お姉ちゃんは今、そっち側へ飛ぶためのヒントを与えてくれている。
だけどまだ、私には翼がない。
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作者名:しろりんご。 | 作成日時:2023年1月1日 0時