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「お姉ちゃん…」
『いいんだよ、気にしなくて』
「でも…」
『A…もう決めたんでしょ?
乃木坂で頑張るって、そう決めたんでしょ?』
「うん」
『だったら、迷う必要なんてない。
ママのことなら、私がどうにかするから。
それくらいさせてよ、私にも』
「…うん」
ママは、言うだけ言って帰ってしまった。
私の顔なんて、もう見たくないのかな。
自分で決めたくせに、心がさざ波立つように不安になる。
こんな弱い自分が、尽く情けない。
迷いはない。
乃木坂46になるって決めた。
アイドルとして頑張るって誓った。
でも、ママのことは失いたくない。
嫌われたくない。
両方手に入れたい。
そう願ってしまう私は、わがままなんだろうか。
『何かを手に入れるためには、何かを失わなきゃいけない。
私はそうだった。
そうまでして、私は自分の自由を手に入れた。
後悔はしてないよ。
ただ、Aがそうとは限らない。
そしたらそれは、またその時に考えよう。
お姉ちゃんも、一緒に考えてあげるから』
「…ありがとう」
『とりあえず、しばらくは寮暮らしになるみたいだから。
Aはもう、神奈川に帰らなくていいからね』
「…私、このまま逃げててもいいのかな」
『逃げから始まる出会いもあるから。
たまには、逃げることも必要なんだよ』
「分かった…」
罪悪感に押し潰されそうになる。
時折感じる、何とも形容しがたいもの。
自分の行動全てに、負の動機付けをしてしまう。
泥沼でもがく私を救ってくれるのは、いつもお姉ちゃんだ。
『白橋Aちゃんかな?』
「はい」
『オーディション、合格おめでとう』
「…ありがとうございます」
『僕は、乃木坂46の代表をする今野と言います。
オーディション見てたんだけど、覚えてるかな?』
「覚えてます」
『さっきは大丈夫だった?
お母さん、かなり反対してたみたいだけど…』
「すみません、内緒で受けていて…」
『大丈夫、そういう子は結構いるからね笑』
「あの…どうして、私は合格だったんですか?」
『…それは、活動してくうちに分かると思うよ。
きっと、みんなが教えてくれるはずだよ』
いや、違うかもしれない。
これから、私に救いの手を差し伸べてくれるのは、ここにいる仲間だ。
同じ乃木坂46のメンバーだ。
信じてみたい。
そして、私も力になりたい。
私に必要なのは、そういう横との自由な繋がりなのかもしれない。
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作者名:しろりんご。 | 作成日時:2023年1月1日 0時