変わらない日常 ページ3
『A、帰んないのー？』
「ごめん、今日はママが迎えに来るから…」
『さっすがお嬢様〜』
「全然…そんなんじゃないよ」
『いやいやいや、それは嫌味だから笑
新体操やってピアノやって、塾行って土日は劇団でしょ？
ほんっとお金持ちじゃないとできないからね？』
「まぁ、そうかもしれないけど…」
『うちなんてさー、習い事もおばあちゃんにお習字教わってるだけだし。
放課後なんて、友達ん家に行ってゲームやってお菓子食べるくらいだよー』
「楽しそうでいいじゃん」
『えー、そうかなぁ』
「うん笑」
『まぁ私は自慢だけどね？
こーんなハイスペックな友達がいて』
「…ありがとう」
『じゃ、新体操頑張ってねー！』
そして、言われた通り校門で待つ。
時間に遅れないように、教室からダッシュで出てきた。
息を整えてたら、後ろから声をかけられた。
同じクラスの子。
小麦色に日焼けした肌から、スラリと細い腕が伸びてる。
毎日、自転車に乗って友達と遊んでるから。
ちょっとだけ羨ましいなとも思ってしまう。
そんな自分に被りを振る。
私は、自分のためにやってるんだから。
今ここで、怠けてちゃいけないんだ。
:
『はい、お待たせー』
「ありがとう、ママ」
『今日の学校はどうだった？』
「え、別に普通だよ？」
『普通って何よー』
「特に何もなく、普通に終わったって感じかな」
『休み時間は誰と遊んだの？』
「いつメンの4人ー」
『給食は何だった？』
「カレーとゼリーとサラダ」
『全部食べた？』
「食べたよ」
『今日の新体操は何やるの？』
「リボンと床の練習がメインって言ってた」
『ピアノの練習は何時まで？』
「ご飯何時にできるの？」
『8時だよ〜』
「じゃあ、8時までやる」
車に乗った途端、スイッチが切り替わる感じがする。
いつの頃からは分からない。
ただなんとなく、見られているということを意識するようになった。
私の中には理想の私がいて、でもその理想は私の方向を見てはいなくて。
何となく齟齬を感じながらも、見なかったことにする。
だって、そうすれば円満だから。
穏やかで、平和で、傷つかない。
それが分かってからは、その波に抗うことを辞めた。
『はい、行ってらっしゃい』
「ありがとうママ、行ってきます」
変わらない日常。
世界は狭い。
でも、漠然と思っていた。
もっと広い場所で、見たことのない景色が見たいと。
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作者名：しろりんご。
| 作成日時：2023年1月1日 0時
