Prolog ページ2
私の世界は、狭かった。
この広い世界の中の、小さな国の、小さな県の、そのまた更に小さな家。
ありふれた光景、見慣れた街並み。
10歳の私にとっては既に小さくて、そして狭かった。
ううん、世界から見れば豊かだと思う。
衣食住には困らないし、交通の便も良い。
3階建ての家には、大きな庭やテラスがあって、欲しいものは全てある。
それでも、私の世界は狭かった。
:
『もー、遅かったじゃない』
「そうかな?5分だけでしょ?」
『5分かもしれないけど、起きて来ないから心配したでしょー?』
「はいはい」
『朝ごはん出来てるから、早く食べちゃってよね』
「うん、ありがとう」
『あーもう、その前に着替えちゃって!
洗濯できないから、脱いだら洗濯機回してよ!』
「はーい」
『A、今日は新体操の日だから早く帰ってくるのよ。
ママ、迎えに行ってあげるから』
「分かってるよ」
『ちょっと、なんでそんな機嫌悪いのさー
ママがうるさく言ったから?』
「別にそういうわけじゃないけど」
『あ、二者面談の紙、ちゃんと先生に渡してよー?
その日じゃないと、ママ仕事休めないからね』
「うん、分かってる」
『それと、今日は暑くなるみたいだから水分ちゃんと摂るのよ?
日焼け止めとタオル、ランドセルの中に入れて置いたから』
「ありがと」
『ママは、Aを心配して言ってるんだからね!
友達と帰って来ると遅いんだもん。
みんなは習い事してないからいいだろうけどさぁ…
とにかく、校門の前で待っててね、分かった?』
「…はい」
夏の始まりを感じる、初夏の季節がやって来た。
と言っても、私の景色は変わらない。
毎日毎日、学校に行って習い事に行って、帰宅して宿題をして寝る。
土曜日だとか日曜日だとか、そういうのもよく分からない。
そんな日々の積み重ねで、時が進む。
だから、何月であろうと、季節が何であろうと、見える世界は変わらない。
お城の中で同じ作業を繰り返していれば良かった。
お城の主の機嫌を損ねず、ニコニコやり過ごせば良かった。
やることをやって結果を出して、素直に挨拶をして自分を磨いて。
苦ではなかった。
だって全部、自分のためだから。
ただ、波風を立てないように、自分を飲み込めばいい。
言う通りにしていれば、いつか必ず自分にリターンとして還元される時が来る。
そう信じて疑わなかった。
みんな当たり前にそうしていると思っていた。
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作者名:しろりんご。 | 作成日時:2023年1月1日 0時