・ ページ23
＿＿＿本当に最後の時間が、やって来た
サヨナラの意味のイントロが聞こえる。
大好きだけど、聞きたくなかったメロディ。
奈々ちゃんが、遠くに歩き出す。
その姿を、霞んだ視界の向こうから眺めていた。
歌っている時、どこを見たらいいのか分からなかった。
その光彩に目を向けられず、私は俯いていた。
ただじっと、零れそうになる涙を堪えていた。
マイクを両手で握りしめて、溢れそうになる想いを堰き止めていた。
通常より長いバージョンのはずなのに、その瞬間はすぐに来てしまった。
戻ってきた主人公を真ん中に据えて、最後に踊る。
この背中越しに見える景色も、その美しい後ろ姿も一生見られない。
後ろ手でピースした彼女を、もう目に焼き付けることは出来ない。
我慢してたものが一気に溢れてきたけど、私はマイクを離さなかった。
最後まで、一緒に歌い切りたかったから。
その音が途切れる瞬間まで、橋本奈々未は橋本奈々未だった。
＿＿＿終わった
彼女は、開口一番こう言った。
ちょっと茶目っ気のある横顔には、一寸の悔いも残ってなかった。
メンバーが次々に退場して行く。
奈々ちゃんが、下手から近づいてくる。
どんどんその距離が縮まり、ついには華奢な腕が伸びてきた。
そうされたら、飛び込む他に選択肢はなかった。
＿＿ほら、そんなに泣かないの
＿＿奈々ちゃんっ…
＿＿なぁに？
＿＿今までありがとう
＿＿こちらこそありがとう
＿＿卒業おめでとう
＿＿ありがとう、頑張ってね
＿＿頑張るから、見ててねっ…
＿＿ずっと見てるよ
彼女の匂いに包まれた世界。
交わしたのは、ありふれた言葉。
だけど、それで十分だった。
私は最後、ちゃんと笑えたから。
最大限の笑顔で、バイバイ出来たから。
またひとつ、サヨナラに強くなれた。
最後にもう1回、広がる緑を目に焼き付ける。
ありったけの感謝を込めて、頭を下げる。
そして私は、踵を返してステージを後にした。
5年半前、私達は出会った。
その出会いは、運命だった。
そして、その瞬間から別れへ向かって走ってた。
繋いだ手は、絶対に離さなかった。
それが、あなたの最大の優しさでした。
今日までの5年半、たくさんのしあわせをありがとう。
あなたと出逢えて良かった。
これからは、1人の女の子として、しあわせになって下さい。
ずっとずっと、大好きです。
橋本奈々未さん、卒業おめでとう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 422人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
美紀 - 移行おめでとです最高ですコロナウイルスに気をつけてくださいね (2020年11月20日 14時) (
レス) id: 8204dae0fb (このIDを非表示/違反報告)
陽香(プロフ) - リクエストありがとうございます。お時間頂きますが書かせてもらいます！ (2020年10月3日 0時) (レス) id: 29c64901f3 (このIDを非表示/違反報告)
はーー(プロフ) - 岩本蓮加ちゃんとの絡みが見たいです！！ (2020年10月1日 20時) (レス) id: 1ddc39e4b6 (このIDを非表示/違反報告)
陽香(プロフ) - なななさん» リクエストありがとうございます。お時間頂きますが書かせてもらいます！ (2020年10月1日 14時) (レス) id: 29c64901f3 (このIDを非表示/違反報告)
陽香(プロフ) - 瑠花さん» まとめての返信で失礼します。リクエスト頂戴しました。お時間頂きますが、書かせてもらいます。 (2020年10月1日 14時) (レス) id: 29c64901f3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：しろりんご。
| 作成日時：2020年9月19日 14時
