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『次の方、お願いします』
「…大丈夫かな」
『大丈夫?話せる?』
?「…ヒックヒック」
『緊張してるかな?』
?「…ヒックヒック(コクン)」
午後の審査が始まってすぐのこと。
それは、突然だった。
明らかに今までと違う空気の子がいた。
緊張で泣いてしまう子は、他にもいた。
でも、彼女の場合はレベルが違う。
子供のように泣きじゃくって、喋れる雰囲気じゃない。
大丈夫かなと、こちらが心配になってしまうくらいに。
「落ち着いてからでいいよ、深呼吸してみな?」
?「…ックスーハー」
『大丈夫?名前言える?』
?「…おおぞの…ももこですっヒックヒック」
「大園桃子ちゃんね」
『どこから来ましたか?』
大園「鹿児島県から来ました…っ」
俯いてたから、顔が見えなかった。
深呼吸をして、意を決して上げた顔。
目が合った瞬間から、心臓を射抜かれてしまった。
まん丸の瞳は、涙で潤んでいて。
こんなにもクリアな瞳があるのかっていうくらい、澄んでいた。
邪念なんて全くない、純粋無垢な子。
声を聞いて確信した。
震えているのに、鈴が転がったような瞬発力があって。
一度聞いたら忘れない、また聞きたいと直感する声。
出会ってしまったら、もう離れられなかった。
:
「大園桃子ちゃん……すごすぎる」
『劇的に印象に残る子だったね』
「なんで、あんな泣いてるのに喋れるんだろ…
ちゃんと自分の今の感情を言葉にしてる。
考えられてない、素直な言葉なんだよね。
それで自分の気持ち伝えられるんだもん、すごすぎるよ」
『なんだろうね…絶対また会いたいって思うよね』
「うん、目が離せなさすぎる」
『多分、ものすごい伸び代がある子だろうね』
「ああいう子が1人いても、面白いかもしれないですね。
こんなに乃木坂に興味ないのに、ここまで来たんですから。
それは、一度見たら忘れられないっていう天性の才能だと思う。
あの子にしか出せない空気感っていうのかな。
アイドルとしてあまりに出来すぎてる。
私、完全に負けました…」
『…すげぇ』
「勝てないです、あの子には。
もっと知りたいし、もっと関わりたい。
多分、寝ても忘れられないと思う」
『じゃ、彼女はパスで。
SHOWROOMでどう化けるか見たいね』
天才に出会ってしまった。
一目見て、負けを確信した。
アイドルとして完璧な要素を持ち合わせすぎてる。
彼女と共に物語を作りたいと、願ってしまった。
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作者名:しろりんご。 | 作成日時:2023年5月5日 23時