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何秒か、時間が止まった。
パチリと、その瞳と目を瞬かせること数回。
彼女は慌てたように、付け足した。
「いや、本当に嬉しいし安心してるんだけどね？
何となく、戻って来ないかもしれないって思ってたの。
傍からグループを見ると、その勢いが何倍速にもなって見える。
自分が知らない間に、みんながどんどん成長しちゃって。
置いてけぼりにされちゃう錯覚をして。
追いつけないって、必要以上に悲観しちゃう。
私も玲香も、どちらかと言えば責任の重い立場にいるから。
急流から逸れたら、自分に絶望しちゃいそうだなって…
こんな流れの早い場所に、自ら戻る勇気なんて出ない。
そんな自分がここに居て良いわけないって、立ち止まっちゃいそうで…」
桜井「うん…」
「休んだことでより、絶望が深くなっちゃうんじゃないか。
自分には出来なかったことをみんなはしてて。
私だけ、同じ時間と同じ温度を共有してなくて。
その時、その場所に戻る勇気があるかなって。
私、結構心配してたんだよね…
誰にも言わなかったけど、不安だったんだ。
私たちが頑張れば頑張るほど、玲香にとってのプレッシャーになっちゃうんじゃないか。
復帰を妨げちゃうんじゃないかって、ちょっと思ったりもした」
彼女はよく見てる。
見てるだけじゃない、気持ちを正確に理解してる。
全く同じ感情を通過した。
だから未だに、絶望から抜け切れていないのだ。
魔法から覚めた瞬間が怖い。
この高揚感から解かれて現実に戻った時、まざまざと事実を突きつけられるのが怖い。
それでも、去るという選択肢は不思議となかった。
何故だろう、その理由。
桜井「…分かんないんだよね、私もまだ。
でもね、今じゃない気がするんだ。
もうちょっと、頑張りたいって思う何かがある。
よく分からないんだけど、何となくそう思うんだ。
答えが見つかるまで、去りたくないなって」
「そっか…じゃ、これからも一緒に探そ」
桜井「いいの…？」
「うん、私もまだ見つけてる途中だから。
後悔しそうって漠然と思ううちは、まだダメなんだと思うよ。
そこまで冷静に考えられてるなら、きっと大丈夫」
桜井「…だね」
今、すごく楽になった。
理由を明確に言葉に出来なくても、きっかけが見つかっていなくても。
漠然と後悔したくないってだけで、ここにいてもいい。
探し物は、これから見つけるんだから。
答えが見つかるまで、私はこの船から降りないって決めた。
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作者名：しろりんご。
| 作成日時：2023年5月5日 23時
