愛とは優しく皮肉なもので ページ34
橋本side
Aにだけは言えなくて。
でも、Aには言っておきたくて。
母親からの無償の愛を求めて、でも得られなくて苦しむA。
私は、そんな母親からの無償の愛に背中を押されて卒業を決めた。
Aが聞いたら、反論出来なくなるだろう。
分かってた。
ずるいけど、納得させるには1番の武器だった。
子供が1番求めているものを貰ってしまっては、断ることが出来ない。
受け取らない理由がないのだから。
案の定、Aはずるいと言った。
私はもう一度、ごめんと背中を抱きしめた。
橋本「ごめん…」
「ほんとは嫌なのに…っ
卒業して欲しくない…っ！
もうちょっと一緒に頑張りたかった！
でも…理由聞いちゃったら…っ
私、止められないじゃんか…っ！」
橋本「ごめん…ごめんねっ」
「だって…ななみんに自由になって欲しいもん。
自分のやりたいことやって、幸せになってほしい。
誰かのためじゃなくて、自分のために頑張ってほしい。
自分のために夢追って、叶えて欲しいもん…っ」
橋本「A…」
「ななみんにとって芸能界は、夢の場所じゃない。
だから、夢が叶ったら未練はなくなっちゃう。
もうそれは、ずっと前から分かってたはずだった。
最初にななみんの話を聞いた時から、漠然と気づいてはいた。
もし、自分の目標を達成したらここに残る理由はないって。
分かってたつもりだったのに…っ
私はどこかで、甘えてたんだよね。
もしかしたら、夢を叶えても残ってくれるんじゃないか。
乃木坂がいつしか、次の夢の場所になってくれるんじゃないか。
でも…ななみんはななみんだから。
橋本奈々未はブレない人。
それが、私の知ってる橋本奈々未だから…っ！
だから…止められないよ！」
橋本「A…っ」
いつだって、彼女は優しい。
自分の気持ちより、他人の気持ち。
人のために自分を後回しにしちゃうのは、もう癖なのだろう。
私が、家のために芸能界に入ったこと。
アイドルになりたかったわけじゃないこと。
最初に全てを知ったのは、Aだから。
それでも、今日までの時間は本当に楽しくて、かけがえのないものだった。
大切だけど、もう私の役割は終わったから。
自分の夢や、本当にやりたいことに向き合いたい。
次のステップに進むには、ここを去らなきゃいけない。
このまま本当の気持ちを誤魔化していても、結果的に良い未来は待ってない。
自分に嘘つきたくないから、私は決断したんだ。
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作者名：しろりんご。
| 作成日時：2023年5月5日 23時
