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「そしたらさ、まゆちゃんも快く背中押してくれて。
今野さんも全く反対しなかったし、戸ヶ崎さんなんか泣いちゃって…
それはね…うん、ちょっと嬉しかった。
自分の頑張りが認められたような気がして。
頑張って来て良かったなって思えたんだ」
橋本「そうだね…頑張ったもんA。
みんな、止めるなんて絶対しないよ」
「あとねあとね、ななみんにもう一つ報告ね。
報告っていうか、宣言。
1回しか言わないから聞いてね？」
橋本「ん…」
「私、来年の総選挙に出るの。
これが私にとって、最後の総選挙ね。
そこで、1位を目指す。
最後にやっぱり、1位からの景色が見たい。
これが私の、AKB48としての最後の使命だと思うから」
彼女なら、いつか言うかもしれないと思ってた。
それでも、実際に目の前で聞くと鳥肌が立った。
自分の頑張りに気づき、認めた上で最後の挑戦をする。
最後にして最大の挑戦。
こんなにも嬉しくて胸いっぱいなのに、同じくらい苦しい自分がいた。
「…ななみん？どしたの？」
橋本「…兼任、決めたんだね。
自分の意思で決められたんだね…」
「うん、ちょっと前から考えてはいたの。
自分の気持ちに問いかけて、自分で判断した。
私が後悔ないって思ったタイミングだったから。
今なら、笑顔で楽しかった思い出で終われるから」
橋本「そっか…成長したね」
「えへへ〜」
橋本「A…」
「え…どしたの？」
橋本「偉かったね、A…」
「うん……ななみん、今日なんか変だよ？」
橋本「…っ」
「どうしたのななみん、何かあったの？」
橋本「いいから…っ！」
柄にもなく、腕の中に手繰り寄せた。
顔を見られないように、ギューッと閉じ込めた。
戸惑うAの耳には、私のうるさい鼓動が聞こえているはずだ。
涙を我慢する震えだって、伝わっているはず。
このままの勢いで伝えなきゃ、もう言えない気がした。
深呼吸を一つ、小さくする。
意を決して、腕の中から彼女を解いた。
両肩に手を置いて、心配と不安が入り交じった瞳を正面から捉えた。
＿＿私、乃木坂を卒業するの
時が止まった。
彼女の形の良い唇が歪む。
目の色が、悲しみに変わった。
みるみる涙が溜まり、あと一突きすれば零れてしまいそうだ。
しばしの沈黙が流れる。
私は、ただひたすら瞳の奥を覗いた。
黒目に映る自分が、泣いているのが見えた。
そして、先に口を開いたのは、彼女の方だった。
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作者名：しろりんご。
| 作成日時：2023年5月5日 23時
