きっと思い出したいのだろう ページ4
「やあ、今日も来てくれたんだね」
「…昨日、オレは確かにここに来たが貴様と会った覚えはない」
研究室に行くと先客がいた。今日の昼に馴れ馴れしく背中を押してきた女だ。
「ふふ、君は昨日もここに来て私と話していたよ」
虚言癖か妄想癖か。どちらにしろ関わらない方がいい。
「…怪我をしているね、擦り傷。今日マッシュ君と戦ったんだっけ?」
「そうだが」
ゴポポと音を立てて女が持っているフラスコが緑に染まっていく。
「彼、不思議だよね。きっと何か隠している。でも人の秘密を探るのは無粋だ」
「案外常識はあるんだな」
「酷いなぁ」
午後6時になる前にこの研究室に行くのが何故かオレの日課となっていた。
何かをしているわけではない。ただ気付くと時間が経っている。
「何を作っている」
「薬さ、これが成功すれば全人類が魔法を使えるようになる」
この時代に魔法が使えない人間はほぼ居ない。だがアザが消えていく難病を患った我が愛しき妹アンナのことを考えるとその薬の需要性は一応あるのだろう。
「僕の夢が叶うんだ」
夢。
全人類が魔法を使う、そんなに大切な事だろうか。
仮に使えたところでコイツに何のメリットがある。
そんなオレの心情を知ってか知らずか、コイツは勝手に語り出した。
「幸せになって欲しい人がいるんだよ」
「彼は神覚者になる」
「そんな彼の人生が全てにおいて恵まれていて欲しい」
「誰かに悲観される経験なんて要らない」
随分独りよがりな夢だと思った。ソイツが消えたら如何なるかなんて考えていないんだろう。
1人の為に人生を賭けているのが、少しオレと重なった。
「恩返しがしたい」
今日出会った人間にここまで親近感が湧くとは思わなかった。きっとコイツとはまた縁があるだろう。
「おい」「時間だ」
「フォアメモリー」
.
「…は」
気づくと研究室にいた。
…またいつものか。
ここ最近研究室に行くと勝手に時間が過ぎている。研究室に来た所までは覚えているが、何故行っているのか何をしているのかはいつも忘れてしまう。
「…」
医者に診てもらうべきか。
これ以上時間の無駄にしない為にも、ここに向かうのは避けた方がいいと分かっている。
分かってはいるが、
何故かここに来てしまう
__
「いつかのだれか」に似ている気がした。
吉本ばなな『とかげ』
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はな(プロフ) - 透さん» ご指摘有難う御座います!私ずっとウェーだと思ってました…(にわか)。これからも引き続きお願いします! (3月31日 11時) (レス) id: 2ebd6ae62e (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - 本好きさん» コメント有難うございます!結構こだわってるのでそう言って貰えてすごく嬉しいです! (3月31日 11時) (レス) id: 2ebd6ae62e (このIDを非表示/違反報告)
透 - 細かい所なんですけど、セル・ウォーのウォーがウェーになっています。楽しく読ませてもらっています!! (3月31日 8時) (レス) @page7 id: 23dba55806 (このIDを非表示/違反報告)
本好き(プロフ) - 毎回お話の最後にある文章がこだわりを感じて好きです。これからも楽しく読ませていただきます。 (3月30日 21時) (レス) @page7 id: 860fd688d9 (このIDを非表示/違反報告)
はな(プロフ) - 華さん» コメント有難うございます‼︎そう言って頂き光栄です。これからもそう思って頂けるよう頑張ります! (3月30日 20時) (レス) @page7 id: 2ebd6ae62e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:はな | 作成日時:2024年3月28日 21時