雲間がとおあまりよっつ ページ14
一昨日より昨日、昨日より今日とだんだん雨足が強くなり、天気が不安定になるこの季節
畦道はぬかるみ、小川は増水、そして濃霧があたりを濁す
昼間はそこまででもないが、足を取られ泥がつき、肩が重くなっていくのは幾つになっても苛立ちが募る
うわ最悪だわぁ。
どうしたんですか。
泥が跳ねて、靴の中入ったわ。
はっ、ざまぁないっすね。
うるせぇわw
よっこいせと半ばおっさんくさい言葉が飛び出ながら、先輩は片足で立ち泥が入ったという方の靴を持ち上げる
その中にはかなり泥が入っていたのか、片足でヨタヨタしながら中に手を突っ込み掻き出していた
その様子を横目で見つつ、怪我をした時のためにあまり離れないようにフラフラとしていた
その時、ふと風にのって花の香りがした
いや、正確には香りじゃなかったのかもしれない
ただ何かを感じ取ったのか顔を上げる
またあの感覚だ
世界に取り残されたかのように音も時間が過ぎる感覚も体の動き下手が止まり固まる
今度は幾分かはっきりと見える女の子が、薄い紫色のワンピースを靡かせてやってくる
楽しそうに白い傘をクルクル回しながら…
そのまま目の前に来ると手を取って言った
ねぇ、きょうはかわであそぼう！
その声は音として捉えたのかそれともそれ以外で捉えたのか、頭の中に直接響くような感覚に不気味さを覚えた
ただそれだけで、声に導かれるがままにただただ、引かれる手について行った
楽しそうにこちらを振り返ってはふわふわしたように喋り、カラカラと笑う
それにつられるがままに笑い、歩を進める
…A？
その耳は音を拾うでもなく
その足は地を踏み締めるでもなく
動かなかった体は嘘のように動き
そのまま轟々と音を立てて流れる澱み切った濁流へと吸い込まれて行った
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作者名：あげのり | 作成日時：2022年5月21日 20時
