桜色の手紙〈平野〉 (ページ8)

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── もし良かったら、一緒に帰りませんか？

平野くんの一言をきっかけに

帰り道で隣を歩く事になった今、

私は不思議な気持ちだった。

年下の青年と友達になるということが

どこか現実味を帯びてくれなくて

上手く処理しきれていなかったから。

考えたところで無駄だとは思うけど、

時折、こちらへ視線を向ける平野くんに

個人的な違和感が抜けなかった。

平野「先輩って、永瀬先輩と仲良いですよね」

フラフラと足取りも適当なまま

家へ繋がる道を歩いていれば

平野くんが話題を出すように言った。

まさか廉の名前が出てくるなんて思わなくて

一瞬、戸惑ったりもしたけど

特に気にする事はしなかった。

「あぁ、うん…一年の時、同じクラスだったから」

平野「いいなぁ、僕も同い年が良かったです」

“ そしたらもっと早く仲良くなれたのに ” と

叶いもしない世迷言を口にする彼は

屋上に居た時と同じ切ない雰囲気を醸していて。

「今から仲良くなればいいでしょ？」

なんとなく、声を掛けてあげたくて

そうやって微笑みかければ

ですね、と眉尻を下げて笑った。

青白い街頭の光る夕夜の帰り道、

暗いアスファルトに落ちるふたつの影が

ゆっくりと前に進んでいく。

特に何を話す訳でも無く、

春の生温い空気が頬を撫でる感覚を

ただ少し感じるだけの小脇道。

平野くんとの絶妙な距離感に

緊張しているのは私だけ。

隣が廉じゃないというだけで

これほどまでに緊張してしまうのか、と

酸素の足りない身体に教えられた。

平野「えっと、A先輩？」

「 …ぁ、ごめん、どうかした？」

平野「いや、家ってどっちの道ですか？」

ふと気づいて彼の言葉に前を見れば

二つに分かれた道があって

“ あぁ、こっちだよ ” と平野くんに伝えた。

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