深甘チョコレート〈 平野 〉

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通路案内が到着を知らせて


店から数メートルほど離れた駐車場に


慣れたハンドル捌きで車を停めた平野さん。








あえてバックミラーは使わず


助手席の裏に腕を回して、首を捻る形で


車体の後ろを確認していた。








ほんの一瞬だけ強くなったバニラの香りが


あまりに私を酔わせてくるから


意識をパンケーキへと向け直したけど。








今から美味しいパンケーキを食べられるのだ、と


そんな風に考えてみても上手くいかず。








シートベルトを外して


サングラスや帽子といった装備品を


流れ作業のごとく身につける彼を見つめた。








『 あ、ステージの時に渡した指輪。
Aが責任もって指につけといてくれる？ 』








後部座席の下から小さな木箱を取り出して


その中に入っていたディーゼルの


シルバーリングを中指に付ける。








それを普通にやってのける平野さんが怖かった。








あの有名ブランドの何千円とする


高級なリングを、そんな軽々と付けるなんて…


流石は天下のジャニーズ様。








「 その責任…かなり重いです 」


『 だって、返したら帰っちゃうかもしれないし 』








あらぬ心配をしてくれる彼に


静かな奥ゆかしさを感じて胸が締まる。








自分のお気に入りであるリングを


何処の馬の骨かも分からないような女に


預けてしまえる程の度量なのか。








彼の動きが全て日常的なものに感じられて


身の程知らずに寂しくなりながらも


少し大きめのゴールドリングを指にはめた。








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『 うわ、人多… 』








絶対バレる、と帽子を深く被り直す。








十分待ちと表示された電光掲示板に目をやれば


列の最後尾へと足を進めた。








『 こんな寒い中、よく待ってられるな 』


「 きっとそのくらい美味しいんですよ 」








夜の冷えた空気に当たる手のひらを擦り


なんとか温めようとする彼の手は


卑怯にも想像を掻き立てるように動いた。








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