深甘チョコレート〈 平野 〉

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人の気配が薄れていって


本当にこっちであってるのかな、と


不安が募るまま足を進めていた。








明らかに一般人やファンが来てはいけなさそうな


一般的に建物裏と呼ばれる、


日の陰った湿気の多い場所に来る。








二つの赤いコーンの間に渡しが掛けられて


立ち入り禁止と表記されているものを見つけた。








その両サイドには警備員さんらしき人が立っていて。








油断していると目が合って、


その人はゆっくりとこちらに歩いてきた。








あ、これは声掛けられるやつだなと諦めた時


警備員さんの後ろから人影が現れて


何やら少し話をしている様だった。








その影は有名なスポーツメーカーの


真っ黒なラインパンツを履いて


大きめのベンチコートを羽織っている。








目元に据えられたサングラスは


昨日つけていたものと全く同じ色で、


あの人だという事を教えてくれた。








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『 ごめんごめん、海人に絡まれてて 』








片手を上げながら小走りに近づいてきた彼は、


額に少しだけ汗をかいていた。








「 いえ、全然大丈夫です 」


『 そう？てっきり困ってんのかと思ったわ 』


「 もし話しかけられたら、
平野さんの名前使うつもりだったので 」








はははｯ、と歯を見せて笑う彼に


さっきまで本番だったというのに余裕だな、と


プロ意識を感じざるを得なかった。








今でも目の前に本物の平野紫耀がいると考えれば


背徳感で押し潰されそうになるけど。








彼の笑顔に染められてしまっては、


その感情でさえも泡のように消え去った。








『 意外と強気だな 』








関係者入口からホールの中に入って


私の事を案内してくれる彼。








彼が進んでいく廊下の両脇には


小道具やステージで使う照明器具、カメラが


これでもかと言うほど並んでいて。








彼も通りにくいと思っているのか、


その後ろ姿は少しだけ足のスピードを緩めた。








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