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圧巻の数時間が幕を閉じて
帰りを促すアナウンスが流れ始めた。
これまた人波が寄せては返すところに
身を任せてしまった方が良いと力を抜く。
別に急いでいる訳ではないし、
ゆっくり帰った方が余韻に浸れるだろう、
なんて安易な思いつきだった。
ホールを出た所で、袖口に入れたものを
確認しようと取り出して見てみる。
それは…彼がしていたはずの指輪だった。
あまりに特別なものを手にして
思わず喉から音が漏れそうになったけど
それを耐えるように飲み込む。
これ、平野さんのやつじゃん。
なんでこんなものステージ中に渡すかな。
もし私が違う人だったら
どうするつもりだったんだろう。
そんな風に考えていると、
鞄の中のスマホが、細やかに震えた。
指輪を片手に握ったまま
鳴り続けるものを取り出してみれば
表示されたのは “ 平野 ” の二文字。
人混みを掻き分けて道端にくると、
通話口を耳に当てた。
『 今日は出んの早かったな 』
沢山の音が交じり合う中、
心に滴るハスキーボイスが聞こえた。
『 今どの辺? 』
「 出入り口辺りにいます 」
『 そこ人多いだろ、裏回って 』
「 え?裏? 」
立ち入り禁止のとこで待ってるから、と
微かな騒音が響く中で
それだけを伝えて電話を切った。
そんな事言われても、裏とか分からないし。
こんなに人が多いのに目立つ事なんか出来ない。
並べても仕方がない言い訳を
うだうだと心の棚に羅列させながら、
思い切って立ち入り禁止区域を探してみた。
帰りの道へと流れていく人々を逆流して
裏だと思うところに向かってみる。
肩のぶつかった人は、
怪訝そうに私を睨んで波に乗り直す。
数々の視線が刺さりまくる。
不覚にも、早く平野さんに会いたいだなんて
贅沢な事を考えてしまった。
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さくらんぼ&チェリー@サブ(プロフ) - あぐた。さん» わぁぁぁぁぁ!ありがとうございます!! (2020年2月21日 21時) (レス) id: 8fd736f5ec (このIDを非表示/違反報告)
あぐた。(プロフ) - さくらんぼ&チェリー@サブさん» コメント、ありがとうございます。ベテランだなんて…まだ投稿を始めて数ヶ月も経っていない未熟者です。また作品読ませて頂きますね!(^^) (2020年2月21日 1時) (レス) id: b86c6074bc (このIDを非表示/違反報告)
さくらんぼ&チェリー@サブ(プロフ) - いんこです!hit数がスゴい……ベテランさんですね! (2020年2月21日 1時) (レス) id: 8fd736f5ec (このIDを非表示/違反報告)
あぐた。(プロフ) - ゆかさん» コメントありがとうございます。ただいま下書きをしております。公開予定は今週末を予定しておりますので、もう暫くお待ち頂ければ幸いです。 (2020年2月18日 10時) (レス) id: b86c6074bc (このIDを非表示/違反報告)
ゆか(プロフ) - いつも読ませて頂いています!是非新作も読ませて頂きたいのでパスワード教えて頂きたいですか (2020年2月18日 10時) (レス) id: ad4f41f45e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あぐた。 | 作成日時:2020年1月25日 21時