吸血少年吸血少女 (ページ6)

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『お待たせ。
アップルパイ持ってきたよ。』

「「わぁ～！」」

リリィの運んできた、甘い香りにシンシアとアンジェは、目を輝かせる。
この家のアップルパイは、リリィの叔母にあたる人が焼いており、この3人が家に来ると、いつも焼いてくれる。

特にアンジェとシンシアは、このアップルパイが大好きで、叔母に教わろうとしたくらいだ。

『今日はおかわりもあるから、たくさん食べて良いって。』

「「やったぁ～！」」

はしゃぎ声を上げて喜ぶアンジェ達を横目に、リリィはベルントの隣に座る。

ベルントの目は、はしゃいでいるアンジェに向けられている。

その視線は、幼なじみ、というだけではない…何か他の感情も、交えていた。

「…あ、リリィ。
僕も食べて良いかな。」

『良いよ。
その為に焼いたんだから。』

ようやく我に返ったベルントを見て、リリィは溜め息を衝く。

自分よりも大きな、この友人の背中を押してきたリリィ。
だが、自らの中にもよく判らない感情が、渦巻いている。

…自分の中で、わざと《その感情の名前を分からない》事にして。
心の奥底に封じ込めている。

「リリィも食べましょうよ！」

ひまわりの様な微笑みでいうアンジェに

『うん、分かってるって。』

張り付けた笑顔で返事をする。

…深海色の瞳が、一瞬穢れたのは、誰も見えなかった。