孤独の氷 Ⅱ 【被虐のノエル】 (ページ8)

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昔のことなので、あまり覚えてはいないが。
彼はやんちゃだが家族想いで、優しかった。
どこか冷えていた自分の家族と違い、彼らの家庭は暖かかった。

思い出さないようにしていたのに、どうも気が緩んでしまっている。

｢(＿＿もう、忘れよう)｣

彼女は、自分の記憶に鍵をした。

「結構長かったな」

時計がないから今が何時かは知らないが、かなり浮いていた気がする。
また濡れた服の裾を絞り、薄暗い先の道を見た。
やはり、灯りは使いものにならないくらい頼りない。

先程より狭く、ゴミの山は多くなっている。
よく見れば、壊れた機械類などが捨てられ、ひょっとしたらまだ使えるものもある気がしてきた。
…ノエルが、なにか見つけたようだ。

彼女の左手に握られていたのは、割と新しいモデルの携帯端末だった。
他のものと比べても比較的綺麗なため、捨てられたのは最近だろうか？
電源は入るのか、とカロンに問われ、ノエルは電源ボタンを長押しする。
が、電源は入らなかった。
バッテリー切れか、壊れているのか。

「(別に、どっちでもいいか)」

やがて、広いフロアに出た。
階段が続き、その先に厳つい扉がある。
あれはきっと出口だ。

ザザ――

無機質なスピーカーの音に、上を向いた。
そこから、多少ノイズの混じった聞き覚えのある女の声が聞こえる。

「―――海底迷宮の水位が上昇してるので、何事かと思ってモニターしてみれば…。
さすがはノエル様、カロン様、ミシェル様。往生際の悪さは光るものがありますね」

相変わらずの敬語に、ミシェルの顔に青筋がたつ。
自分で着いてきておいてアレだが、正直こんな塩臭い所に落とされてかなり苛立っているようだ。

「(…ミシェル、お前そういう所は昔と変わらぬな)」