スイートショートストーリー【JUMP】

ねぇ、せんせい《Hikaru》 ページ17

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「せんせーわかんなーい」



毎年憂鬱でしかなかった夏期講習が、今年は楽しみで楽しみで仕方なかった。



「はいはい、どこ？」



苦笑いしながら近づいてくる八乙女先生は、塾で講師のバイトをしている大学生だ。


明るい髪色にはあまり似合わないスーツを着ていて…。


でも、今日もとびきりかっこいいの。


黒いフレームの眼鏡をくいっと直して、私のノートを覗き込む。



「ここ」


「あー、ここはね、……聞いてる？」



八乙女先生の顔があまりに近くにあったから、見惚れていて全然聞いてなかった。



「すみません…」


「Aちゃんはどうしたら勉強頑張れるかなあ」



チャームポイントの八重歯を見せて、先生は笑う。


先生が私の名前を呼んだから、とくん、と胸の奥が音をたてた。



「……八乙女先生がデートしてくれたら、頑張れます」



勇気を出して言った。


しゃぼん玉のように浮かんだ声は、先生に聞こえてないのかもしれないけれど。


しばらく黙り込んでいた八乙女先生は、口元の形だけを変えて、にやりと笑った。



「じゃあ、さ。夏休み明けのテストで学年10位以内に入ったらデートしよ」


「えー…」


「ね、だってご褒美だもん」



本当にずるい人だ。


私、よくても50位以内にしか入ったことないのに。


からかっているだけなのだろうか。



「先生、私頑張ります…！」



気づいたら口走っていた。


私だっていつまで先生の手のひらで転がされるような子供じゃない。


絶対10位以内に入ってやる。


後悔しても知らない、覚悟しててよね。


そのご褒美、絶対私がもらってあげるから。




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