ゆるゆる短編集 6【芸人】 (ページ48)

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四千頭身石橋ページ48

Aside

｢ねぇ石橋くんてさ、なんでAさんと付き合ってるの？｣

慣れない事するんやなかった。

収録が久しぶりに一緒になったから遼大の嬉しそうな顔でも拝んでやろうと思って四千頭身の楽屋に来てみれば、中から聞き覚えのある後輩の声。

石橋｢…なんで、って何｣

｢えーだってさぁ、いつも無表情だし笑ったとことか見た事無いし、全然石橋くんと釣り合ってないじゃん！｣

別に傷付きはせぇへんけど。

前から釣り合ってないなぁとは思ってたし。

私は昔から感情表現が苦手で、遼大からの愛情に分かりやすく返してあげたことも無い。

遼大は確かにネタ中は無やけどほんまは感情とかバンバン表に出してく人やし、きっと私とおっても楽しくないやろうなってずっと思ってた。

やから別に怒りとか悲しみとかなんも無い。

ただちょっとタイミングが悪かっただけ。

｢多分あの人石橋くんの事好きじゃないんだと思うよ？
年上のおばさんだし関西の人だし、きっとあっちに良い感じの人がいるんだよ。石橋くん騙されてるんじゃない？
だからさ、あんな人なんかやめて私と…｣

石橋｢…いい加減にしてくれる？｣

｢……え？｣

今まで聞いた事無いような遼大の怒りを含んだ声に驚いた。

…まぁ、顔には出てへんのやろうけど。

石橋｢黙って聞いてれば勝手な事ばっか。なんでって思うのは自由だけどAさんの事悪く言うのは違ぇだろ。
みんなには分かんなくても俺には分かんだよ、無表情に見えても今喜んでるとか悲しんでるとか｣

｢で、でも…｣

石橋｢そもそも俺の気持ち無視して話進めんな。
たとえAさんが俺の事好きじゃなくても俺はAさんの事すっげぇ好きだし、Aさんの事悪く言ったお前に乗り換える気なんてさらさら無いから｣

｢っ…｣

楽屋の中からすすり泣く声が聞こえてきた。

…いや、あんたが悪いんでしょ？

溜め息をついて楽屋のドアをノックした。