9、何故君がこれを？ ページ9
「――お、Aラップ興味あんの？」
ＣＤラックを物色していた帝統が嬉々とした声を上げる。
女性が権力を持ち、武力での闘争に終止符が打たれたこの世界で男性は“ヒプノシスマイク”を駆使してラップバトルをするようになった。
各地域を代表したMCがラップバトルをすることで、その領地を拡大させるテリトリーバトルが行われているのだ。
結果、人々はラップに深く関心を持つようになり、特に男性においては「男ならラップの一つや二つできるよね？」なんて言われてしまう始末。興味がないわけなかった。
「そりゃまあ、俺も男だし」
「っはは、違いねえ。にしてもまあよくこんだけ集めたもんだな」
五段あるＣＤラックの内、四段がラップ関連のもので埋め尽くされたそれを帝統はしげしげと眺めた。
俺自身、嗜む程度にラップはするが、それよりも男の情熱、決意、魂の篭もったリリックを聴くのが何より好きだった。
男性不利なこの世の中で、それでも諦めることなく、挫けることなく、今を必死に生きている。
そんな彼らの思いが入ったラップを聴くと何だか自分まで頑張れるような気がして、ＣＤショップを見かける度につい新譜を手に取ってしまうのだ。
その結果がこれだ。収集癖があるわけではないが、ラップ関連のＣＤはコアなものまで取り揃えているつもりである。
「なるほどなあ……相当好きなんだな、伝わってくるぜ」
「人生の活力剤って言っていいぐらい、それぐらい好きだよ」
「――よし、じゃあそんなAにイイもん見してやるよ」
ちょっと待っててくれよ。
そう言い残して部屋を去った帝統の背中を見つめ、さて何を持ってくるのだろうかと考える。昨日拾った時は特に何か持ち物があったようには思えなかったのだが。
程なくして戻って来た帝統の手には“＄”を象ったマイクのようなものが握られていた――いや、待てよ。ひょっとしてあれは……
「ほら、俺のヒプノシスマイク」
「っえ……帝統、それ、え、まじで？」
本当は人に見せないようにしてたんだけどよ、Aだから。特別。
思いがけないヒプノシスマイクの登場でうろたえる俺に、ほら、と軽々しくヒプノシスマイクを差し出してくる帝統。
触っていいものなのだろうか。だってヒプノシスマイクなんてそんな、高尚なもの。
なかなか動こうとしない俺に、業を煮やした帝統は無理やりそれを握らせてきた。
――これが、ヒプノシスマイク。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 181人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒプノシスマイク」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おと姫と愉快なサカナたち(プロフ) - 帝統の小説少ないからありがたいです！更新頑張ってください！ (2021年11月11日 1時) (
レス) @page16 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
さぁら(プロフ) - 素敵です。好きです。(語彙力)更新頑張ってくださいっ！ (2018年12月6日 23時) (レス) id: 50e6c7827a (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 綴(プロフ) - 夏蜜柑さん» 頑張ってください !! 楽しみにしてます !! (2018年9月17日 18時) (レス) id: a0e587eb3a (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 翡翠 綴さん» コメントありがとうございます！素敵だなんてそんな、とても嬉しいです(；；) 遅筆ではありますが更新頑張りたいと思います〜！！ (2018年9月17日 18時) (レス) id: d7baab8fea (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 綴(プロフ) - あぁぁあ … 素敵です 。更新頑張ってください 。 (2018年9月17日 3時) (レス) id: a0e587eb3a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夏蜜柑 | 作成日時：2018年8月23日 22時
