11、察しがいいんだね ページ11
「ーーそっか」
彼が自身の目的のために何を賭けようと、それは彼の自由である。
それ故俺に彼の行動を咎めることはできない。
しかしそのことを承知の上で俺は自らの胸がきゅう、と締め付けられるのを抑えられなかった。
だって、その時もし何か間違いが生じていたら今ここに帝統はいなかったかもしれないのだ、俺と帝統は出会えてなかったのかもしれないのだ。
そんなの、寂しすぎると思わないか？
少なくとも俺には耐えられない。
「A？」
急に俯き黙りこくった俺を、帝統が心配そうに覗き込む。
帝統にとっては命を賭けることなんて取るに足らないことなのかもしれない。だから俺が今心を痛めてる理由がわからないのだろう。
――もっと自分を大事にして欲しいだなんて。
そんなこと、出会って一日も経っていない男に言われてもきっと迷惑だ。
俺は喉元までせり上がってきた言葉を呑み込み、下手くそな作り笑いで「大丈夫、なんでもないから。次俺の仕事部屋紹介するよ」と告げた。
帝統は何か言いたげな表情で俺を見つめていた。
「ここが仕事部屋。締切きつくなるとここに二日間缶詰めとかざらにある」
「すっげー……」
ごちゃごちゃと物が詰められたその部屋を見て帝統は感嘆の声をあげた。
あの後、深く俺に詰め寄ってこなかった辺り帝統は賢いと思った。
俺の表情から「言及しないでほしい」と思っていたことを悟ったのだろう。正直助かった。
特にありがたかったのは先程までの気まずさを引きずらずに、こうして普段通り接してくれているところである。お陰様で俺もバツが悪い思いをしなくて済んでいる。
――と、物珍しそうに部屋を見回していた帝統の視線が一点で止まっていることに気付いた。
「何かめぼしい物でもあった？」
「あー、いやあの本棚小説が混ざってるように見えたからよ」
「ああ、そうそう。混ざってるよ」
ほら、と彼の目線の先にあった文庫本を取ってみせる。
それは漫画本が立ち並んだ本棚の一角に紛れ込ませておいたものだった。
「夢野……げん、たろう？」
「そう、夢野幻太郎先生。処女作の表紙を担当させて頂いてから、ありがたいことに毎回ご依頼頂いてて。俺は俺で帯の文章幻太郎くんに書いてもらってるし、懇意にしてるんだ」
「へえ」
自身が描いた表紙を眺めながら嘘吐きで愉快な友人を思い出し微笑んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 181人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おと姫と愉快なサカナたち(プロフ) - 帝統の小説少ないからありがたいです！更新頑張ってください！ (2021年11月11日 1時) (
レス) @page16 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
さぁら(プロフ) - 素敵です。好きです。(語彙力)更新頑張ってくださいっ！ (2018年12月6日 23時) (レス) id: 50e6c7827a (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 綴(プロフ) - 夏蜜柑さん» 頑張ってください !! 楽しみにしてます !! (2018年9月17日 18時) (レス) id: a0e587eb3a (このIDを非表示/違反報告)
夏蜜柑(プロフ) - 翡翠 綴さん» コメントありがとうございます！素敵だなんてそんな、とても嬉しいです(；；) 遅筆ではありますが更新頑張りたいと思います〜！！ (2018年9月17日 18時) (レス) id: d7baab8fea (このIDを非表示/違反報告)
翡翠 綴(プロフ) - あぁぁあ … 素敵です 。更新頑張ってください 。 (2018年9月17日 3時) (レス) id: a0e587eb3a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夏蜜柑 | 作成日時：2018年8月23日 22時
