9 恥ずかしいから ページ10
今日は一日が過ぎるのが酷く遅かったような気がする。
この一日で限界値まで疲労が溜まったのか、身体がずっしりと重たくて、中々席から立ち上がれそうにない。
…久し振りの登校だからかなぁ。入院中、かなり体力が落ちてしまったし。
放課後になると一斉に教室から人が飛び出て行って、取り残されたのは私と彼の二人ぽっち。
「結局最後までいたんだね」
彼は窓の外を眺めたまま「ここの席は結構いい感じなんだヨ」と言った。その声音で笑っているのだとわかる。
「子猫ちゃん、これから予定はあるノ？」
「ない、けど…その呼び方って何とかならないの？」
彼は不思議そうに首を傾げる。
えぇ、もしかして、自覚なしでその呼び方なの…？
「子猫ちゃん、って…恥ずかしいんだけど…」
…なんかごめんなさい。
何故だか気が引けて謝罪すれば、彼は拍子ぬけた顔をする。そして、彼にしては珍しく、本当に可笑しそうな顔で笑って。
「じゃあ、なんて呼んで欲しいノ？」
「それは普通に名前を…」
「Aっテ？…それなら逆に、そっちもボクのこと名前で呼んだらどウ？」
「へ？」
突然のことに声が裏返る。意外すぎるその返答に、この人こんな事も言うんだ、なんてついつい思ってしまって。
「夏目…………くん」
勇気をだして彼を呼ぶけれど、意図に反してその声は段々と小さくなる。
どうしてこんなにも微妙な空気が流れるんだろうか。同級生の名前を呼ぶくらい、当たり前のことなのに。
やっぱり彼にはすぐには慣れそうにないなぁと思う。
「…ククッ、変な顔してるヨ、子猫ちゃん」
不意にデコピンを食らう。
咄嗟におでこを擦れば彼は私に手を差し出した。
立ち上がれという意味だろうか。
取りあえずこちらも手を差し出せば、彼はしっかりと私の手を握った。
「ほら、お友達が待ってるヨ」
彼の視線の先には衣更くんとその背中に乗った朔間くんの姿があって、よく見てみればその後ろに伏見くんと鳴上くんもいる。
一応彼の方に目線を戻せば、彼は「行ってあげなヨ」と私の背を押した。
「…ばいばい？」
…で、いいのかな。手を振りつつ首を傾げる。
明日彼がここに居るかもわからないし、普段から想像するに今日だけが気まぐれで明日は部室に篭ってる方が可能性は高い気がした。
だから挨拶にばいばいを選んだつもりだけど、それに気付いているのかいないのか、彼はまた笑って。
彼は何も言わず手を振り返してくれた。
だから、私も背を向けて皆の元へ足を進める。
「またね、A…♪」
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かなかなかな… - ありきたりな言い方になってしまいますが、ものすごく感動しました。所々泣きそうになってしまったり、最後はものすごくニヤニヤしたり。読んでいてとても楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました！！ (2022年3月29日 19時) (
レス) id: 62f4ed090e (このIDを非表示/違反報告)
みる - 最後のタイトル回収がほんとうにすごかったです！めちゃくちゃ楽しませていただきました！！ (2021年9月21日 17時) (レス) @page50 id: 8126ce0406 (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - ふわり｡さん» コメント・ここまでお付き合い下さり有難う御座います。こちらこそ、これからもお付き合い頂ければ嬉しく思います笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - 哀霞さん» コメント有難う御座います。そう言って頂けて幸いです…励みになります。次回作の方も宜しくお願い致します笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
ふわり｡ - 完結おめでとうございます！雰囲気も素敵でエピローグまで一気に読んじゃいました（笑）これからもファイトです！ (2019年8月21日 17時) (レス) id: 9c497f6a6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：繕 | 作成日時：2019年7月31日 11時
