0 笑うな ページ1
それは二年生の合同プロデュースの日だった。
彼女から10分間の休憩が言い渡されて、なんとなく仲のいいグループで集まり、身体を休めながら駄弁る。そんないつも通りの時間。
どこからか「ドリンクがぬるい」なんて声が聞こえて、ふと自身の手元のドリンクボトルに目を落とす。
…確かに、キンキンに冷えているかと言われれば答えはNOである。今日はここ数日の中でも特に気温が高いから、大方そのせいだろう。
でも別に飲める範囲の物だ。
この程度、口に出す程のことでもないだろうに。
そんなことを思いつつも、口には出さなかった。
それが当たり前だったから。
こんな時、アイツは慌てて予備のドリンクを渡すのだ。
ごめんねと謝罪して、眉を下げて笑う。
それなのに、あの日はその声が聞こえてこなかった。
不思議に思って彼女の方を見やれば、彼女はただ黙って俯いていた。
その瞬間、ぽたり、ぽたりと、地面に数的の滴が落ちたのが目に入る。
「ごめん、もう、無理みたい」
彼女はいつもよりも小さく震えた声でそう言って、いつものように控えめに笑う。その瞬間。
鈍い音を立てて、彼女の身体が地面に崩れ落ちた。
その側でドリンクボトルがゴロゴロと転がると、きっちりと閉まっていなかったらしいボトルの蓋が外れ、辺り一面に水溜りが広がり始める。
ぼたぼたと流れ続けるスポーツドリンクと、一向に動くことのない彼女の小さな体。
甘ったるい匂いのせいか、この猛暑のせいなのか、
意識がやけにぼんやりとしていた。
それから数秒。
誰かが慌てて彼女に駆け寄って、俺を含めた他の生徒たちもその後を追う。ぴくりとも動かない華奢な体に心底恐怖を覚えて、気を張らないと意識が遠のいていくような気さえして。
僅かに触れた彼女の指先は、驚くほどに冷え切っていた。
いつの間にやら駆けつけた救急車のサイレンが遠くに聞こえる。レッスン中のメンバーたちは、呆気に取られたようにその場に固まってしまった。
そんな時、どこからか誰かが溢したのは、
「 こんな時期に練習時間を無駄にさせんなよ 」なんて、心無い言葉。
俺はそれに対して反抗しなくてはいけないはずだった。
けれど、喉元で留まった言葉は出なくて、そんな自分が情けなくて。
それでやっと気付くのだ。
俺に止める資格があるのかと。
彼女の笑みが嫌に脳裏に貼り着くような、暑い日の放課後のことだった。
( 嗚呼、頼むから、もうその笑顔を見せないでくれ。)
笑うな
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かなかなかな… - ありきたりな言い方になってしまいますが、ものすごく感動しました。所々泣きそうになってしまったり、最後はものすごくニヤニヤしたり。読んでいてとても楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました！！ (2022年3月29日 19時) (
レス) id: 62f4ed090e (このIDを非表示/違反報告)
みる - 最後のタイトル回収がほんとうにすごかったです！めちゃくちゃ楽しませていただきました！！ (2021年9月21日 17時) (レス) @page50 id: 8126ce0406 (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - ふわり｡さん» コメント・ここまでお付き合い下さり有難う御座います。こちらこそ、これからもお付き合い頂ければ嬉しく思います笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - 哀霞さん» コメント有難う御座います。そう言って頂けて幸いです…励みになります。次回作の方も宜しくお願い致します笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
ふわり｡ - 完結おめでとうございます！雰囲気も素敵でエピローグまで一気に読んじゃいました（笑）これからもファイトです！ (2019年8月21日 17時) (レス) id: 9c497f6a6a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：繕 | 作成日時：2019年7月31日 11時
