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その日は、雨が降っていた。
「轟くん、雨、降ってきたね」
いつの間にか、にわか雨だったはずが、本降りになってきていた。
「傘、忘れた」
「あー、一緒に帰る？」
たまたま、今日は日直の日だった。
今残っているのは、私たちだけ。
「いいのか？」
「うん」
ひとつの傘に、異性同士が二人で入ることには、なんも抵抗はなかった。
相手は、あの轟くんだと言うのに。
アスファルトは、既に雨に濡れていた。
これじゃ、直ぐに水たまりが出来るなぁ、なんて思いながら、歩いていた。
「ねぇ、轟くん。少し、おしゃべりしてもいい？」
「……どうぞ」
私と轟くんは、よく個性について話す。
もちろん、自分の個性を自慢し合ったりする訳ではない。
個性に対しての、価値観。なんてものが、少し似ているのかな。
「今日の授業さ、あ、歴史ね？
私たち、手を挙げたじゃん。過去の時代に行ってみたい、って。
私さ、本気で、行ってみたいって思うの。
個性なんか、なかったら良かったのに。
人それぞれ、個性を持っている時点で、この世界は平等じゃないんだよ。
そもそも、無個性の人だっている。
個性があるから、ヴィランとヒーローが存在する。
昔だったら、泥棒と警察、みたいな感じでしょ？
世界が平和になるためには、個性がなくなるべきだと思うの。
でも、その一方で、個性があるからこそ、この世界が成り立っている、私たちが生きていられる、って思う部分もある。
……よくわかんない話になったけど、個性について、もっと深く考える必要があると思うのね。」
長くなった私の話を、最後までしっかり聞いてくれた轟くん。
「たしかに、そうなのかもしれない。けど、俺たちは、過去の世界を知らないから、ちゃんとしたことは言えないんだよな」
「そうなんだよね」
「時冷は、個性があるのか？」
「どうして？」
「言ってることが、無個性目線だったから」
「そうだった？まぁ、個性はあるけどね」
「どんな個性なんだ？」
「やけに積極的ね」
「いいだろ、別に」
うん、別に教えてあげない、意味もないけれど。
「『タイムスリップ』」
轟くんは、足を止めた。
どうしたの？、と問いかけるが、しばらく反応がない。
彼は空を見上げると、持っていた傘を閉じて、私に向き直った。
その個性で
過去へ行くことは出来ないのか?
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作者名：つばくらめ | 作成日時：2019年5月27日 21時
