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遡行軍襲撃肆 ページ26

「なあチュン太郎…アレ、なんだと思う?」

「チュン。」

山の麓で1人、騒ぎ泣き疲れていつの間にか地面に突っ伏して爆睡していた我妻善逸は、取り敢えず目の前で起きているアレ(惨劇)について理解しようとした

「そっか……やっぱりそう思うよな」

ひっきりなしに響く轟音は地を揺るがす事を止めない
家に、木に、火がついて辺り1面の業火である
鼻を刺すどす黒く重々しい煙の匂いの出元はきっと民家からだろう
地面には刺され抉られ肉塊と成り果てた人間だった物が辺りに転がっている
挙句の果て肩に乗った相棒からの返答は「チュン。」である

「助けて…助けて……」

「ヒッ」

見ると目の前には死にかけの小さな男の子が這いずって来ていた
潰された喉から絞り出される声はひどく掠れていて、ほとんど金切り声で助けを求めていた
彼の後ろに佇んでいた、大きな大きな刀を持った赤黒い眼をした何かと、目が合った

何が彼をそうさせたのかは分からない
善逸は、男の子から背を向けて山へと逃げた
声は出ない
悲しいとか、ごめんとか、感情すら浮かんでこない
けれど、不思議と涙だけは出てくる

背中で、地面が叩きつけられた音と肉と骨とが潰れる音、そして死に際に人間が出す大絶叫が響いた
自分を見捨てた善逸を呪い殺してやる、と言うような、純情な怨みの叫びであった

アレは、無理だ
本能でそう悟った体が、善逸に残った生存へのたった一つの道へ向かわせた
アレだけは、あの男の子を死へと誘ったアレだけは、絶対に自分では勝てない
両の手で耳を強く強く押さえつけて塞ぐ
もう何も耳に入れたくない…何も聞こえてくるな…と言うような気持ちで
訳もわからず山道を走りながら、空虚(からっぽ)だった頭がどんどん紅潮して行く

アレが…あんなのが何匹も居るのか

「は、はっはっ…は、」

呼吸が荒くなっていく
今にも倒れ込みたい気持ちをぐっと堪えながらも、走る事と、震えだけは止まらない
汗とも涙とも分からない生ぬるい雫が首筋を流れる
バクバクと、聞こえてくる音の中で1番大きな心音が思考を妨げる
止まらない、涙も汗も、自分を制御する何もかも

この世界で1番恐ろしいのは鬼だと思っていた
でもきっとアレは鬼ではない……じゃあ何だって言うんだ
出る筈のない答えをぐるぐると探し続ける脳は何の役にも立たない

アレは…目が合っただけで勝てないと感じさせた
お前では勝てないぞ…と善逸にただ逃げる事を余儀なくさせた

「ぁ……禰豆子ちゃん、みんな」

遡行軍襲撃伍→←遡行軍襲撃参



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設定タグ:刀剣乱舞 , 鬼滅の刃 , クロスオーバー   
作品ジャンル:ファンタジー
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雪桜 - 鬼滅の刃と刀剣乱舞のクロスオーバーの話は好きなので続き待ってます! (2020年11月29日 20時) (レス) id: 22c6e8b5c8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ちんたに | 作者ホームページ:p://  
作成日時:2020年11月16日 20時

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