四言目 ページ6
本殿に入り直ぐに目に入ったのは寝そべっている少年だった。包帯がぐるぐる巻きで顔はよく分からないが緑色のくせっ毛の髪に学ラン、中学生なのは確かだった。何をしたらこんな怪我をするのか知らないがとりあえず今は沙羅さんの言う通り治すことに専念する。
｢....ナイチンゲール、【クリミアの天使】｣
ナイチンゲール＿＿＿＿それはかの戦争で多くの人を救った偉人として知られている。個性としてその才能を使うことにより彼女が触れた人々はたちまち怪我は癒え安心と安らぎをもたらす。人々は彼女のことを称えこう言った、｢クリミアの天使｣だと＿＿＿＿
｢ふぅ....とりあえずこれで大丈夫だと思います。起きる前にお風呂に入ってもいいですか？｣
｢ええ、いいですよ。そのうちに夕飯の準備をしておくので。｣
お風呂に入る為に“自分の部屋”に入った。あの家より長くいるため自室がこの神社にはある。千を越える本、机に沙羅が紬のために用意した寝具に服。紛れもなく紬の部屋だ。これらの多くは沙羅が与えたもので紬は申し訳なく思っているのだが沙羅は一向に気にする様子もない。服は正直自分の趣味だし本だって自分が読んでいたおさがりだから気にする事はないと、むしろもっと甘えていいのだと言うくらいだ。あの家の人より余程家族らしい。実際紬も沙羅もお互いにかけがえのない存在になっている。
一般家庭に比べたら数倍は広い風呂を満喫し居間に戻るとちょうどあの少年が目を覚ました。
｢＿??ここは....｣
｢おはようございます。お目覚めのようで何よりです。ここは陰陽神社、そして僕は神社の神主の沙羅です、お見知り置きを｣
｢へっ、あ、はい！ぼ、僕は緑谷出久です！！！よろしくお願いします！！｣
目覚めた少年は想像より遥かに明るかった。沙羅の自己紹介につられてか同じく自己紹介を始めたところを見るとかなり混乱しているのだろう。
｢ところで出久さん、何故貴方はあんなにも怪我をしていたのですか？｣
｢....!!!そうだ、僕、確かあの時....｣
｢？｣
｢....僕、死のうかと、思って、いたんです....｣
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作者名：藍 | 作成日時：2019年5月10日 22時
