【A3!】好きな人【短編集】 (ページ7)

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｢それで、すごすご引き下がって来たわけ？｣
｢…ごめん｣
｢謝られても困るんだけど｣
言葉は冷たいが、こうして話を聞いてくれるあたり瑠璃川くんは本当に応援してくれてたのだろう。そう思うと放課後付き合わせてた彼の時間にも申し訳なくなり、また謝罪が口を衝きそうになる。

｢でも、言いたいことは言えたから｣
調子に乗って衝動買いしたピンクのラッピングが、膝の上でくしゃりと音を立てた。
｢やっぱり無理だったんだよ、告白なんて｣
いつだって男の人に好かれるのは、小さくてふわふわしてて守りたくなるような女の子。私とは正反対のそんな可愛い友人たちの恋愛を、私はいつも応援する側だった。
｢私みたいに可愛げのないヤツに好かれても困るだけだよね｣
分かっていたはずなのに、見ないふりをしていた自分に情けなさが込み上げてくる。
｢現に今、振られたっていうのに涙すら出てこないし｣
ほんと可愛くないよね、と笑ってみせる。瑠璃川くんは相変わらず、呆れた顔をするだけだった。

｢Aさぁ、それ本気で言ってる？｣
向かい合っていた瑠璃川くんが、机に身を乗り出す。身長差で自然と上目遣いになる彼は私なんかよりよっぽど可愛く見えた。

｢俺だって暇じゃないんだよね｣
劇団の稽古もあるし。そう続けられた瑠璃川くんの言葉に、罪悪感がのしかかる。
｢あっ…ごめ｣
｢だから｣
ほぼ反射で出た謝罪の言葉はわざとらしく遮られ、最後まで音にさせてもらえない。
｢俺、好きでもない人にタダで時間割けるほど、お人好しなつもりないから｣

｢…え？｣
たっぷり10秒程は空いただろうか。それでも今の言葉を処理しきれない私の口から零れたのは、何も意味を成さない返答だけだった。
｢決めた。Aのお願いだったから失恋覚悟で協力したけど、今日から全力でアンタを落としてやる｣
悪戯な笑みを携えた彼に、私は頭にはてなを浮かべるばかり。勘違いでなければ、今の発言は告白紛いなそれではないだろうか。

ふと思い付いたように、そのままの笑顔で瑠璃川くんは手を伸ばす。その手は私の頭の上に乗ると、幼子をあやす様に優しく撫でた。他の人への告白のために編み込んだ髪を崩さない程度にそっと触れるのは、彼なりの気遣いなのだろう。

｢俺は、好きな人のために頑張ったA、充分可愛いと思うよ｣
ぱたり。くしゃくしゃのラッピングが雫を受け止める音がする。
今更頬を伝う涙の意味すら自分でもわからないまま、私は彼を見つめることしか出来ずにいた。