兵頭 十座 ページ4
｢隣いいっすか｣
聞き慣れた声に自然と口角が上がる。断ったことなんてないのに毎回律儀にそう聞いて来る彼に、振り向きざまにおどけてみせる。
｢なぁに？ナンパ？｣
｢いや、違います｣
真面目な顔で言う十座くんがちょっとおかしくて、思わず吹き出してしまった。
｢ジョーダンジョーダン、はいどーぞ｣
両サイドに無意味に広げてあった教材を端に寄せる。中途半端な時間のせいか人の少ない学食で、わざわざ自分の隣に座りに来る後輩が可愛くない先輩はいるのだろうか。それが好きな人なら尚更だろう。
｢あの、今週の土曜って空いてますか｣
昼食後の雑談と、時折挟まる講義に関する真面目な質問に一段落ついた頃。不意に彼が切り出す。
｢んー、午後からなら空いてるかな｣
そう返せば、ほんの少し顔を綻ばせ、1枚の紙を取り出した。カラフルなそれには、可愛らしいスイーツのイラストと、大きな｢OPEN｣の文字。
｢これ｣
不器用な十座くんらしく、その言葉の続きはなかなか出てこない。
｢いいね、一緒に行こっか！｣
彼の代わりに続きの言葉を紡ぐと、うす、と小さく頷く。先程よりも分かりやすく笑顔になった彼に、私も思わず釣られてしまうのは仕方ないことだと思う。
・・・・・・・・・・
｢お待たせしました〜、たまごサンドとコーヒーのセットと、いちごパフェとカフェオレですね〜｣
ごゆっくりどうぞ〜、と可愛らしい店員さんの間延びした声が去って行く。顔を見合わせ照れたように笑う彼と、そっと目の前に置かれたお皿を交換する。
甘党の彼のメニューが私の前に置かれ、甘くない私の頼んだメニューが彼の前に置かれるのは初めてではない。むしろ慣れてしまったとも言える。
可愛いものやお店が好きでカフェやフルーツパーラーに行きたいけど、甘いものが苦手な私。甘いものは大好きだけど、可愛い空間に尻込みして1人で入れない十座くん。
そんな私たちが一緒にスイーツ店巡りをする仲になるのに、そう時間はかからなかった。
今日も私は幸せそうにパフェを頬張る彼を眺めながら、砂糖もミルクも入ってないコーヒーに口をつける。
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作者名：みたらし団地 | 作成日時：2020年11月3日 0時
