【A3!】好きな人【短編集】 (ページ3)

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21時を少し過ぎたあたり、見慣れた私服姿の皆木くんと一緒にカフェを出る。

｢送ってもらう上にお会計まで…ほんとごめん｣
｢いーんすよ、気にしないで。俺が好きでやってるだけですから｣
お店を出るとき、お会計をしようと出した財布は、店主の｢もう預かってるよ｣の言葉に行き場をなくした。

｢はぁ、もうほんと、迷惑ばっかかける先輩でごめんね｣
苦笑い気味に本日何度目かの謝罪をすると、彼はぴたりと足を止める。
｢ごめん、じゃないです｣
｢え？｣
｢俺が聞きたいのは、先輩のごめんじゃなくて、ありがとうです｣
少し拗ねたような顔でそう言う彼がなんだか可愛くて。
｢ふふ、ありがと｣
お望み通りの言葉を告げると、彼は満足したようにまた私の隣を歩く。

｢でも、お礼はまた改めてさせてね？｣
｢んー、じゃあ｣
少し考える素振りを見せたあと、
｢俺、あのカフェは知り合いの紹介で短期でヘルプ入ってるだけなんですけど｣
｢へ～、そうなんだ｣
｢ヘルプ終わったら、一緒に行きましょ。今度は先輩の奢りで｣
珈琲奢ったのは、それでチャラで。そう言う彼は世渡り上手な人懐っこい笑顔を浮かべていて。断る理由なんてどこにあるだろうか、と二つ返事でOKした。

｢それで、家まで送ってる方のお礼は｣
勿体ぶるように少し黙る。不思議に思い覗き込んだ彼の目は、なんだか少し潤んでるように見えた。
｢俺がこうやって特別扱いすんの、A先輩だけって気付いてください｣
呆気に取られる私に彼は、それだけです。と告げそっぽを向いてしまう。
けれどね、皆木くん。キミのその短い髪じゃあ、真っ赤な耳までは隠れないんだよ。
なんて年上ぶってやりたかったけど。

｢覚えといて、あげる｣
震える声で必死に紡いだ強がりも、彼にはお見通しのようで。
さっきまでより、近いような遠いような、微妙な距離で私たちはまた並んで歩いた。