【HP】カオスセオリーの定理 Ⅳ (ページ8)

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「A！もう一回！」

孤児院で流行っている格闘ゲームでの対戦を何度もせがまれ、Aは困り果てていた。

年下の相手はどうすればいいのかわからないからあまり得意ではないAだが、そうとは知らず彼らはお構いなしにやってくる。

Aが知らない間にやってきた新入りも、もうとっくにAには慣れていた。

夏休み期間しか会うことがないから、Aは孤児院では親戚のお姉さんのような立ち位置にいるのかもしれない。

「嫌よ、どうせまたボコボコにされるもの」

「だって他のみんな外に遊びに行ってるし。CPUはやりがいないんだもん」

「じゃあ、教えてあげればいいんじゃないの？」

Aは持っていたコントローラーを先程からこちらをチラチラと盗み見ながら本を読んでいた新入りの男の子に渡した。

「ほら、やってみなよ」

新入りの男の子は目を丸くしてコントローラーを受け取り、大きく頷いてテレビの前へ掛けていった。

Aはキッチンでコップに水をつぎ、テーブルで編み物をするエミリーおばさんの向かいに座った。

「他のみんなは遊びに行ってるとは言うけど、今自分の部屋に引き篭もってるのも何人かいるじゃない。なんでわざわざ私を呼んだんだろう」

何気なく思ったことをAはポツリと呟いた。

エミリーおばさんはAの言葉に「フフッ」と笑った。

「Aって昔からそうよね、意外と年が離れた年下に好かれるの____ていうか、あなただって去年とか一昨年あたりはずっと部屋に篭ってたじゃない。そういう時期もあるのよ」

「呼ばれればちゃんと下まで降りてたでしょう。全然違うわよ」

二年生の夏休みのときにみんなの相手をそれなりに真面目にしてしまった反省をAは活かしていただけだ。それに、いつくるかもわからない手紙を持ったフクロウが、万が一にでもリビングに現れてしまったら大変なことになる。

今だって、本部に行きたいという連絡の返信待ちの最中なのだが。

「だからじゃない？呼ばれたら来るし、なんだかんだあなたは相手をしてくれるからよ、きっと」

「でも、苦手意識持ってるって、私隠してるつもり無いんだけど」

テレビ画面の前で結果に一喜一憂する二人をAは眺め、水を一口飲んだ。

おばさんは「確かにそうだけど」と眉尻を下げて苦笑した。

「好かれたいと思ってないから子供扱いせず対等でいてくれるし、なんだかんだ相手してくれるし、きっとそれがすごく嬉しいのよ。等身大のあなたが好きなんだわ」

おばさんはニッコリ笑った。

Aは新入りの男の子が試合に勝っておお喜びする様子を横目に、コップの水を喉を鳴らして飲み干した。

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