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裏門の近くに停めていた自転車は無事だった。
思わぬトラブルがあったものの、毎朝早く起きる習慣がついていたおかげで朝練には問題なく間に合いそうだ。
私が通う、このあたりでは1番大きい水泳クラブの駐輪場に乱雑に自転車を停めた。
エナメルバックの金具に繋がるカードケースを外ポケットから取り出し、入り口のスキャナーにかざした。危ないからちゃんと奥にしまえとお母さんに怒られたが、やめる気は毛頭ない。
スキャナーが放つ機械音を聞き置いてから、私は階段を上がって更衣室へ直行した。
室内をギンギンに冷やすクーラーが、私の汗も冷ます。
「Aさん土曜なのに制服珍しー……いや!汗すご!」
私の直後に更衣室に入ってきた川瀬泉咲。私の1個下で、私と同じく専門は平泳ぎ。
当たり前のように私が選んだロッカーの隣にやってきて、そう話しかけてきた。
「ちょっと寄り道してた。ほんっと外暑すぎ、はやくシャワー浴びたい」
私は重いセーラー服を脱いでふーっと長く息を吐いた。
「いやー暑いのまいっちゃいますよね、水泳といえば夏ですけど、屋内だから季節関係ないし」
「まーね。でも、外が暑いおかげで水が気持ちい季節だから、私は嫌いじゃない」
レッグ丈の競泳水着をずり上げて、肩紐に帽子とゴーグルを通した。
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更衣室を出てすぐのシャワー室でシャワーを浴びた。
冷たい水が汗を流し、水を吸った水着がより体にフィットする。
私は結んでいた髪の毛を根本でぐるぐる巻きにしてまとめ、帽子を被った。
「Aさんは高校どこ考えてるんですか?」
「大きいプールあるところがいい」
またしても当たり前のように隣で準備運動を始める川瀬が、唐突に尋ねてきた。
「この辺だったらやっぱ梟谷ですかね?」
「そーだねー、スポーツ推薦来たらの話だけど。普通に受験しても絶対受からん」
「いやいや、Aさんなら高校選び放題でしょ!どこからでも来ますよ!」
「煽てても何も出ないぞー」
「そんなんじゃないですって」と川瀬は笑いながら首を振った。
「担任に今からなんとなく考えておけよって言われていろいろ考えちゃって。この前波多野さんとも話したんですけど、やっぱ梟谷だって」
「波多野と?ふーん」
私は自由形専門のメンバーと準備運動をする波多野瑛衣に目をやった。
ちょうどそのとき、コーチが「集合!」と声を上げた。私たちはコーチのもとへ歩いていく。
「午後の記録会、負けませんからね」
頭半個分背の高い川瀬が私を見下ろすようにしてそう言い、すぐに振り返ってはや歩きでコーチの元へ向かっていった。
私やっぱり、こいつ嫌い。
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作者名:ねむねむねむね | 作成日時:2024年2月26日 23時