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「A！こんなところで何やってんだ？」
やっと私に気づいたお兄ちゃんが走ってこちらへ向かってきた。
私はエナメルバックの中からお兄ちゃんのお弁当を出した。
「忘れてったから、持ってきてあげたんじゃん」
「えっ！？まじでか！すっかり忘れてた、さんきゅー！お前、水泳は？てかなんで制服？」
「これから行くよ。一応高校の敷地に入るわけだから着てきただけ」
私達のやり取りを聞きつけて、多分梟谷の人たちがワラワラと寄ってきた。
「へー！塩崎、妹いたのか」
「言われてみれば、先輩と顔そっくりっすね！」
「塩崎センパイの妹だってー！？」
私よりも何十cmも背の高い男に囲まれるのは、正直に言うと怖かった。
ミミズクみたいな髪型の人の、一段と大きい声にびっくりして、私は思わず、彼らに負けじと背の高いのお兄ちゃんの背中に隠れた。お兄ちゃんはそんな私を見てケラケラと軽快に笑う。
「木兎声でけえな。すんません、こいつ、人見知りなんすよ。お前いい加減それ直せよ。そのまま高校入ったら大変だぞー？」
「大丈夫。今まさにショック療法で鍛えてるところだから」
「あれって、精神的じゃなくて物理的に電気ショックを与えるやつだろ？」
「ま、まじか！」
まさに私に電撃が走った。
なんてこった！知らなかった！ずっと勘違いしていた！
恥ずかしさのあまり顔が熱くなった。私のこの人見知りは、一体いつになったら治るんだろう？
「私、もう行く」
思い出した。私はもうとっくに目的を達成したんだ。早くここから逃げなくては。
「おう！まじでありがとうなー！面倒くさがりのお前がわざわざ弁当届けてくれるなんて、俺感激だわ」
お兄ちゃんはうざったい泣き真似を披露してみせた。
「……運動のあとのご飯、大事じゃん」
運動したあとの極限の空腹状態のしんどさを、私は身にしみて知っている。
それに、忙しいお母さんがわざわざ作ってくれたお弁当を、お兄ちゃんの胃袋に到達する前に腐らせるわけにはいかない。
お兄ちゃんは「そっか、そうだよな」と言って、ニコリと笑った。
「頑張ってこいよー！」
「お兄ちゃんも！」
私は体育館の入り口まで、全速力で走った。
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作者名：ねむねむねむね | 作成日時：2024年2月26日 23時
