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「ちょうどいい塩素の匂いがした！あの匂いはいいプールの証だね。でもちょっとぬるかった」
「いいプールってなんだよ。確かにいつものよりはぬるめだったかもね」
「体感30度だった、私は28度が好きなんだけどな。これから寒くなるからかな」
「合ってそうなのが気持ち悪いわ」
部活が終わって体育館をモップがけしているときに、外から声が聞こえてきて、俺は扉から頭を出した。
「よー、おつかれ、波多野ちゃん久しぶりー」
「ああ、お久しぶりです」
波多野ちゃんはペコリと頭を下げた。
Aの前髪からは水が滴り落ちていて、俺は肩にかけていたタオルをAの頭に押し付けた。
「ちょっと、痛いんだけど」
「ちゃんと拭け」
文句を言いながらも、Aはされるがままに俺に頭を預けた。
「波多野ちゃん背伸びた？」
「そりゃ伸びますよ、親戚のおじさんと同じこと言いますね」
波多野ちゃんに会ったのは何年ぶりだっけ。2年？3年？いや、もっとだな。
Aがクロールをやめて平泳ぎに転向したときあたりからめっきりと、Aの口から「瑛衣」という波多野ちゃんの名前が出てくることはなくなった。
てっきり自然と話す機会がなくなったのだと思っていたが、まだ仲が良かったのか。
「波多野ちゃんも
「そっか、塩崎友達いないもんね」
「もっとオブラートに包んでくれない？」
軽口を叩き合う2人をみて、俺の口角は自然と上がった。
「相変わらず似てない兄妹、ですね」
「まじで？俺達顔似てるってよく言われるんだけどなー」
「……似てないですよ、ぜんぶ」
波多野ちゃんがそう言いながらAを見つめる視線には違和感があって、「そういうことか」と納得したのと同時に、Aのエナメルバッグの中から着信音が聞こえた。
「もしもしお父さん？」
Aは俺のタオルで自分の頭を撫で付けながら電話に出た。
「どしたの急に……お兄ちゃん？今一緒にいるけど」
父さんは滅多に電話なんてしてこない。メールだってそう。連絡をちゃんと返せと母さんに怒られているのをよく見る。
「うん……うん……………え？」
重そうに瞼にかかっていたAの目が一瞬にして見開いて、何かあったのだと俺はすぐに気がついた。
「いや、え……うん、わかった、けど…………うん、じゃあね」
Aが通話を終了して、携帯電話をパタンと閉じた。
「お母さん、過労で倒れたって」
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作者名：ねむねむねむね | 作成日時：2024年2月26日 23時
