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「結局1本も上げられなかったな！」
昇降口に続く湿った廊下を歩きながらお兄ちゃんがドヤ顔をした。
「でも、でもさあ、『無理』て言われると、『勝手に決めんな！』って、思っちゃうんだよね」
「お前ほんっと負けず嫌いだな」
「わっかるー！！」
同じく昇降口に向かって木葉さんと歩いていた木兎さんが、振り返って興奮気味に答えた。
「『無理』って言われると、なんかこう、悔しくなるよな！」
私は驚いて「えっ、あっ、うっ」と言葉になってない声を漏らした。
「俺も『梟谷のエースになる』って言っても、『今のお前じゃ無理』って言われるんだよなー、そんなことねえと思うだけどな？」
「あっ、それはお兄ちゃんがいるから、大変かも」
木葉さんが「ブヒャヒャ！」と腹を抱えて笑った。お兄ちゃんは「俺もそう思う」と頷いた。
それがトドメだったようで、木兎さんはいじけて廊下の消化器の隣りに座り込んだ。
他人から自分の限界値を決められるのは悔しいけど、無責任な『大丈夫』も私は嫌いで、我ながら面倒くさくて嫌になる。お兄ちゃんはそれくらい凄いのだ。
「まーたこれかよ面倒くせえな。よっ！次期エース！」
木葉さんが雑な鼓舞を送ったが効果はないようだ。
「先輩からもほら、なんか言ってやってくださいよ」
お兄ちゃんも適当に「頑張れ！」とか「応援してる！」とか言ってみたものの、結果は言うまでもない。
「あいつがちょっとしたことで上がり下りすんのはいつものことだからさ。気にしなくていいやつ！」
顔に出てしまっていたのだろうか。木葉さんが気を遣ってくれた。
「Aちゃんからも適当に言ってやってくんね？」
木葉さんが困ったようにはにかんだ。罪悪感がどっしりとのしかかってくる。
「あの、そりゃお兄ちゃんは上手いけど、弱点もいっぱいあります！絶叫系苦手とか！」
「そうじゃないだろ！」とお兄ちゃんが突っ込んだ。
「なんか言わなきゃ」が先行して、私も何を口走ったのかよくわかっていなかった。
「それに、『できる』に絶対はないけど、『無理』にも絶対は、ないです」
心臓が高速で動いている。果たしてこれで大丈夫だっただろうか。
「良いこと言うなー！そうだよな！無理なことなんてないよな！」
木兎さんは驚くほど単純な性格のようで、私の一言にすぐに機嫌を取り戻し、走って昇降口へ向かった。木葉さんもそれを追いかけた。
「Aは木兎みたいなの苦手だと思ってたんだけどな」
「びっくりしたけど嫌な感じしないし。それに、全力な人は好きだよ」
お兄ちゃんは「うん！」と笑った。
私達は並んで昇降口へと歩いて行った。
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作者名：ねむねむねむね | 作成日時：2024年2月26日 23時
