16.別個体 ページ16
俺は審神者のいる部屋に引き返した。いますぐ、あやつの顔を確認せなばなるまいという感情に駆られた。
誰が俺をそうさせるのかわからない。
俺の中の魂がそうさせるのか。
「……っ……」
審神者の布団に駆け寄って、聞こえてきたのは呻き声だ。
恐る恐る布団を捲ると、審神者は布団を強く握り締めて呻いている。
「あっ、つ……ぁ……いや、いやだ……」
霊力を放出させるのにかなりの力を使っているせいか、精神が不安定になっている。
前任も初めは手入れをした後に、悪夢に魘されていたことを思い出した。
額に滲む汗が滴り、布団に染みを作った。
身体が熱い。これ以上続けさせるのは、酷なように思える。
「……審神者。もういい、もう辞めろ」
その貧弱な肩を揺らした。
審神者は静かに涙を流している。
「や、だ。手入れ、を……まだ、……」
「ああまだ重傷者は残っている。だが審神者、もう……」
「助けな、きゃ…… "宗近"を……いけないのに」
「――俺?」
審神者の肩から手を離す。
この本丸には怪我を負った刀剣男士が幾振りかいるが、俺は軽傷すら負っていない身だ。
――では、審神者は誰の話をしているのか。
視界を動かして、机の上に伏せられた写真立てが目に入った。
手に取り、伏せられた写真を見る。
三十より多い、六十より多い……
凡そ九十はいるのではないかという刀剣男士と共に映る、審神者の姿。笑顔で二本指を立てる様子は、いまとは別人に見える。
そんな審神者の隣に佇んでいる刀剣は、慈しむ視線を撮影機器にではなく、審神者に向けている。
三日月宗近、俺と瓜二つな別個体の姿がそこにいた。
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黒羽ひみと(プロフ) - 黒無さん» お褒めの言葉ありがとうございます!更新は今しばらくお待ちくださいませ! (2020年9月26日 14時) (レス) id: 451dd01b35 (このIDを非表示/違反報告)
黒羽ひみと(プロフ) - waterさん» ありがとうございます。更新止まってしまいすみません!時間ができ次第再開します。 (2020年9月26日 14時) (レス) id: 451dd01b35 (このIDを非表示/違反報告)
黒無(プロフ) - 素敵な作品ありがとうございます!更新待ってます!! (2020年9月24日 12時) (レス) id: 2b98e9a281 (このIDを非表示/違反報告)
water(プロフ) - 面白い。いい作品に会えて良かったです。更新待ってます。 (2020年9月24日 12時) (レス) id: e941bacba9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒羽ひみと | 作成日時:2020年8月23日 12時