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笑顔を作る清香さん。でも、くしゃくしゃになった入場券を思い出すと、無性にむしゃくしゃした。彼女はこんなにも迷いながら、会いたくて会いたくて仕方ないのに。我慢してる。それが、怖かった。このままその想いを閉じ込めてしまうのではと。
夏目「清香さんやっぱり」
「いいんです。ありがとう、夏目君」
目を大きく見開いた。切なそうな、でも、慈愛に満ちた瞳。的場さんとは反対な。綺麗なガラス玉のような瞳だった。
「いいの。それに、来てくれるかは当日にならないと分からないじゃない？」
少し悪戯っぽく言う笑顔が、今以上に寂しそうに見えた。
名取「すまないねぇ。私のせいで夏目が巻き込まれたようだ」
夏目「いえ」
名取さんが空を見上げた。赤い瞳は懐かしい日々を思い返すように細められた。
名取「的場は歪みすぎてるんだよ」
私が見た的場は、清香を大事にしすぎているんだ。妖怪にしか興味がなさそうな的場が、一度彼女の話をしたことがあった。
あれは、また無理矢理組まされて妖怪を祓っていた頃。少し厄介な妖怪で、苦戦していたんだ。
名取「少々厄介だな」
的場「うん。この手の妖怪は清香がいれば簡単だったんだけど」
ぽつりとこぼした言葉は、的場らしくなかった。しかし、それよりも女子の名前が出た事に驚いたんだ。
名取「誰だ、それは」
的場「妹だよ、僕のね」
にこりと笑う姿は、いつものような胡散臭さはなく、純粋な綺麗な笑顔だった。
名取「お前でも、そんな顔するんだな」
的場「よく分からないけど、行くよ、周一さん」
すぐ妖怪を祓いに行ったけど、私はとてもほっとしたんだ。妖怪を見る目や祓う姿は容赦がなく、こんな奴でも人間らしい一面があるんだなとひどく安心した。
名取「妹。大事なんだな」
的場「うん。血縁者だからね」
それだけではないと思った。そんな血縁者という冷たい言葉からは感じられない温かさがあった。
的場「周一さん。寄ってかない？疲れたし、お茶でも飲んでいきなよ」
名取「はぁ？いいよ。帰る」
的場「ハハッ。周一さんそんなだから友達いないんじゃないの？」
名取「うるさい。お前に言われたくない」
妹がいるかもと、少し嬉しそうな顔をして、的場にしては浮き足立っているような珍しい感じだった。
名取「大体、お前はいつも強引なんだよ」
的場「そうかな？でも、そのくらいが世の中丁度良いと思うけど」
名取「お前は加減を覚えろと言っているんだ」
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作者名：薫 | 作成日時：2020年10月25日 10時
