510話 ページ10
【大我】
桃「樹？…樹！」
青「うあっ、なんだ、きょもか…」
桃「どした？」
青「ちょっと…体調、悪ぃわ…」
ここ最近の疲れが溜まっていたのか、レッスンの休憩中にドサっと部屋の片隅で床に体を預ける樹。
樹がこんな感じになるのは珍しいし、ちょっと、ではないと思って身体をさわれば、さっきまで踊っていたこともあるけど、なかなかの体温が伝わってくる。
桃「やめといたら…？」
青「いや、あと…1時間？ならいける」
桃「もし風邪とかだったとして、Aに移ったらどうすんの？」
青「頼むよ、きょも…」
黄「樹…ダメ。さすがにリスクがでかいよ」
俺と高地の説得に、苦渋の表情を見せる樹。
わかってる。
人一倍責任感の強い樹だから、こうして止められることも望んじゃいないけど…。
それ以上に、Aが体調を崩すことへのリスクについても理解してるはずだ。
まして今、Aは抗がん剤を入れてから一番免疫が下がっている状態で、なんとかギリギリを保って、入院を免れている段階なのも知っているから。
だからこその、その表情なんだろう。
青「帰りたくは…ない…」
桃「ん。ちょっと離れたところいてね…？」
青「きょも…」
桃「ん？なんかいる？後で俺コンビニ行くつもりだけど…」
青「や、違くて…。Aって、さ…こんな気持ちだったんだな、止められる時」
青「前に、Aに言われたんだ。“樹くんの言ってること、分かるけど分かんない…”って。頭は分かってんだ。でも…確かに心はやりてぇし、やんなきゃ…って感じる」
桃「…ふふっ。それがわかっただけでも、収穫なんじゃない？ほら、休んでて」
小さく、少しだけ唸って眠りにつく樹。
心配そうにそんな樹を見つめるAだけど、万が一もあるから、近づかない。
というか、苦笑してるジェシーと慎太郎に止められてるっていうのが正しい。
桃「大丈夫。ちゃんと休むって」
「樹くんも、みんなも…Aんこと止める時、こんな気持ちやってんな…」
その言葉、どこかで聞いた気がする。
お互い、自分で感じてみて、ようやく分かり合える部分であるなって、ちょっとだけ笑ってしまった。
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作者名：かん。
| 作成日時：2020年12月15日 20時
