527話 ページ27
【高地】
勇人「A、いる？」
黄「あ、お久しぶりです！呼んできますね」
オフシーズンで、キャンプイン前の勇人くんが、Aを迎えにきて病院へ連れて行ったのが今朝のことだった。
休演日。
特にすることもなくて、ただソワソワしてしまう。
黄「連絡きた？」
青「いや、まだ…」
手術をしようか迷っている、そんな言葉を聞いて、すぐに連絡をすれば、明日にでも行くと心強い言葉をくれる勇人くん。
2人が今、病院でどんな話をしているのか、どんな決断をしているのかが気になって仕方ない。
それは俺だけではなくて、樹も、北斗も、それにここに集まっているジェシーも、大我も慎太郎も同じなんだと思う。
どんな決断をしたって、Aが一番やりやすい方法を、一番、長く幸せでいられる方法を、ただ後押ししてやるしかない。
「ただいまぁ」
居ても立っても居られないまま、リビングでソワソワしているしかなかった俺は、少し疲れたようにも思えるその声に、一目散に玄関へ向かった。
まだひんやりと冷たい玄関で、ゆっくりと足から靴を外すAの背中が、あまりにも小さくて、後ろから固く、離れていかないように…その存在を確かめるように抱きしめる。
痛いよ…って言うその小さな声は、聞かなかったことにする。
「…決めてきた、2つくらい候補絞れた。みんな、ここにおる？」
黄「うん。いるよ」
「じゃぁ…ちゃんと話すね」
大事な話だとわかっているだけに、俺も緊張を隠すことができない。
リビングに戻れば、心配そうな男どもが、今日話すって？って質問攻め。
心の準備がまだできていないのか、はたまた準備に少し時間がかかっているだけか。
分からないけど、部屋からしばらく出てこないAを心配に思って部屋の前へ行けば、鼻を啜る音が聞こえてきて、足が止まる。
涙は、もう見せない。
そう言っていたのを、知らないわけではない。
静かに彼女の部屋の前に腰を下ろし、彼女の気が済むまで待っていようと思ったんだ。
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作者名：かん。
| 作成日時：2020年12月15日 20時
