516話 ページ16
【大我】
“行かんといて”
そう呼び止められたのなんて、いつぶりだったかな。
そんなことを思いながら、もう一度ゆっくり眠りについたAの頭を撫でれば、先程のような熱は伝わってこない。
黄「…寝た?」
桃「ちょっと魘される時あるし、浅いと思うけど…なんとかね」
黄「…」
いつもならスラスラと出てくるはずの高地の言葉が、珍しく続かなくて、彼の方を振り返れば、硬く唇を噛み締める。
どうしたの?なんて、聞かなくても分かってる。
予想の立たないこの現実に、少しの“恐れ”を感じているのは、彼だけではないから。
年始の舞台に向けたリハーサル。
大先輩とリハーサルを共にできる日程なんて限られていて、それが今日。
全て出たかったに違いない。
ただ、何の違和感だってなかったし、誰もAがこうなるまで、何となくだって、おかしいとさえ思っていなかった。
黄「急すぎて…頭が追いつかなくてさ」
桃「ん、俺も」
黄「笑えねぇ…。感情だけが先走って…」
桃「アツいからね、高地は」
黄「よかった…何もなくて」
まるで、スイッチが切れたみたいに、ストンと崩れ落ちたAの姿が脳裏によぎる。
手を差し伸べる余裕どころか、声をかける余裕さえもなかった。
周りにいた、年下のJr.のみんなもそれは見ていて、きっと後でAは責任感じるんだろうなって、そんなことだけが浮かんだ。
「たい、が…くん」
桃「ん。起きた?」
「起こして、ほしい…」
“今日のリハーサル、休む”
それだけ俺に伝えると、ポロッと一粒だけAの涙がこぼれた。
けど、それ以上は泣かなかった。
“今日、一番大事なのは、カウントダウンだから…”って、まっすぐ透き通った声で、そう言ったんだ。
それともう一つだけ、“お仕事にも、同率一位が作れたらいいのに”って呟いたから、きっとちっちゃい頭で精一杯考えた結果なんだって思う。
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作者名:かん。 | 作成日時:2020年12月15日 20時