505話 ページ5
【大我】
普段の感じから副作用の出てくる時間を見計らって、舞台に立つ間はケロッとしていたA。
薬ってすごいって、改めて感じた。
実際は心配してた副作用もそんなに出なくて、俺らもAも一安心。
「さっき、樹くんに怒られちゃった」
桃「あぁ。ちょっと怒ってた」
「Aは、いつかお母さんになるかもしれないんだぞ!って言われて…ちょっとビックリしちゃった」
桃「樹、そんなこと言ったの?」
「うん。…ちゃんと、普通の1人の女の子としての幸せって、考えたことなかったしな」
「もちろん、それは可能性の一つで。私はまず生きることが最優先やからさ。ほんのちょっとの可能性でしかないけど」
正直、俺たちだって、まだ将来のことなんて到底考えられる状態ではない。
そんな中でも、自然にそんなことを言えてしまう、そして真剣に叱れる樹は、やっぱりすごい。
「治療で…色んなこと諦めた。でも…ほんの少しでもある可能性を、十分すぎるほどに信じてくれる人がいるんやなぁって」
“幸せ者やね、私”
そう言って笑うAに、自分でも驚くようなセリフが出た。
だから、一瞬Aは大きく目を見開いて、それからまた、笑ったんだ。
桃「もっと幸せにする」
「樹くんみたいなこと、言うんやね」
桃「デビューして…もっと、幸せになろう」
「(ギュッ)」
桃「久々にそれ、してくれた。…別に、見えるところで泣いてもいいのに〜」
そうやって少し揶揄えば、見られたくないもんって言いながら、どんどん俺の服にシミを作るA。
昔はよく、慎太郎と喧嘩しては、こうやって俺の背中に隠れて泣いてたのにな…。
今となっては、慎太郎と喧嘩することもなければ、俺の背中に引っ付いて泣くことも少なくなった。
桃「擦っちゃダメだからね。バレるよ?」
「んっ」
幸せを感じて流す涙なんて、いくらだって流したらいい。
いつかその涙の量が、悲しみや、悔しさの涙の量を超えてくれたらいいな、なんてね。
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作者名:かん。 | 作成日時:2020年12月15日 20時