534話 ページ34
【樹】
朝起きれば、俺の横にはスヤスヤと赤ん坊みたいな顔で眠るA。
よかった、ちゃんと寝れたんだ…。
起こしてしまわないように、ゆっくりベッドからすり抜ければ、リビングのテーブルには北斗からの書き置きと、うーちゃんからのメモと一緒に置かれた2枚の新幹線のチケット。
“2人で気をつけて来てください。新大阪まで迎え行きます”
青「ホテル…どこだっけ」
いつもと同じホテルなら、俺ら2人でも行けるから、ゆっくりAに大阪堪能させてやってもいいかと思って調べれば、ドンピシャ。
Aの体調さえ良ければ、だけど。
青「そろそろ起きろ〜」
「ん、ありがと…ぉはよ」
寝ぼけ眼で、クラッチをついて顔洗いに行くA。
昔は絶対に朝イチ義足つけてからじゃないと動かなかったのに、クラッチを洗面台に立てかけて、器用に壁に自分の体を預けて洗顔する姿も、今ではもう慣れた光景。
大阪入りの荷物はすでに準備がされていたのに、なくなっているところを見ると、うーちゃんが持っていってくれたのかな。
「車椅子でもいい？」
青「いいよ。大きい荷物うーちゃん持ってってくれてたっぽいわ」
「うわぁ…ありがてぇ…」
青「ねぇ、口悪い」
「樹くんの移った」
体調も悪くなさそうだし、大阪回ってからホテル行こって提案すれば、思ってた通り“車椅子だし”って遠慮するA。
そんなのいーのって言えば、樹くんがいいなら行きたいって言うもんだから、思わず頭を撫でる。
急遽、デートの決定だ。
まぁ、Aはカケラもデートだなんて思ってないのがちょっと寂しいところだけど。
「あ、これ食べたーい」
青「あ、これは？」
「ん、あり〜！あ、見て。こーくんから」
青「いや、なんで？」
「こないだライブで大阪行ってたやん？」
そうじゃないのよ、なんて思いながらも、一時は聖と連絡取るの躊躇ってたのも知ってるし、ちょっと嬉しくなった。
“私にとっても、やっぱりこーくんは大事なお兄ちゃん”らしい。
そんなこと言ったら、ウチの兄貴は泣いて喜ぶと思うよって思いながら、賑やかな大阪の街の中、ゆっくりと車椅子を押して歩いた。
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作者名：かん。
| 作成日時：2020年12月15日 20時
