無限の未来 11th season (ページ32)

今日:3 hit、昨日:21 hit、合計:87,636 hit

532話ページ32

【大我】

振付師「A！遅れてる！…5.6.7.8、もっかい！」

俺らと比べて、練習時間が短いAは、できる時にできるだけ詰めないといけないから、今日はその日。

鉛のように重たい体を、なんとか動かすAは、必死に食らい付いている。

出るからには、そこだけは貫きたいというAの意思のもと、振付師さんも、ギリギリを攻めてくれているのは、彼女とお互いのリスペクトと信頼があるからこそだろう。

振付師「まだいける？」

「大丈夫、です…っ！」

振付師「おっけ、水だけ飲んでこい？」

「んっ」

本当に平気？って聞くと、頭痛が少しと答えるので、あと10分の約束をする。

振付師さんにも、それをしっかり伝えて、残された10分を最大に使っていく。

「ﾊｧ…ﾊｧ…ﾊｧ……」

黒「すぐ横になるのやめて～、起きて」

「ﾊｧ…ﾊｧ…も、ちょっと…」

黒「もたれていいから。せめて息整うまでは体起こしてて」

Aのドリンクが、さっきのハイペースで空っぽになっていたのが見えて、そっと自販機に向かえば、そこには先客。

やっぱり樹は、Aのことは特によく見ているからそうだよなって納得。

青「きょもも何か飲むー？」

桃「Aのドリンク買いに来ただけだから。樹が買ってくれたなら、いい。ありがと」

青「あのゾーンに入ったら、このくらいしかしてやれ
ないからねぇ」

樹の言う通り。

あのゾーンに入っているAは、止めない。

ゾーンに入れるうちは、まだ体も限界にはいかないことを俺たちもようやく理解できるようになってきたからこそ、できる見守り方。

桃「お、戻ったー？」

「さすがに、ちょっと、ハードやね、疲れた」

桃「ん、お疲れ様」

そう言って頭を撫でようとして、まだ傷跡が完全に治りきっていないことを思い出し、手を引っ込めた。

そんな俺の手を取り、自分の両の頬を俺の手で包み込むA。

“あー、あったか～い”って、フニャっとした笑顔を向けながら言うもんだから、ビックリした。

少し前まで、ゴツゴツとしていた頬も、ほんの少しだけ暖かな丸みが戻ってきていた。